ピケティの『21世紀の資本』に象徴されるように、経済学に対する関心が急速に高まっています。今回は「興味はあるんだけど、分厚い入門書は読む気にならない……」と思っている人にうってつけの『この世で一番おもしろいミクロ経済学』をご紹介しましょう。

全編マンガで
退屈なミクロ経済学がわかる

ヨラム・バウマン/グレディ・クライン著、山形浩生訳『この世で一番おもしろいミクロ経済学』2011年11月刊。帯の裏には著名な経済学者マンキューによる推薦文が掲載されています。

 カートゥーン(漫画)とジョークと的確なコメントでミクロ経済学の骨子を解説した本書は、分厚いミクロ経済学入門書のサブテキストとして多くの読者を獲得しています。

 ミクロ経済学は数学と同じで、法則を覚え、計算問題を解きながら習得するものですが、経済学部の学生にとって、つらく、つまらなく、ひたすらページを消化していく学課です。だいたい必修課目ですから逃げられません。公務員試験にも必ず出題されますしね。つまらないけれど、やらねばならぬ面倒な課目がミクロ経済学です。

 本書の著者、ヨラン・バウマンはスタンダップ・エコノミストを自称する芸人学者で、漫談調の語り口は読者を飽きさせません。バウマン先生はワシントン大学でPh.Dを取得し、環境経済学を講じるレッキとした教授です。

 彼の冴えわたるジョークは、たとえばこんな感じ。

 経済学が前提とする合理的な人間像について。

さて「最適化する個人」にはもちろん、お決まりのイメージがある。

 身勝手で自己中心的なクズ野郎、というやつだ。

 でも、実は経済学の大前提というのは、この世のあらゆる人は「最適化する個人」なんだ、ということだ。(4ページ)

 身勝手なクズ野郎こそ人間の本質ですが、古典派経済学の創始者アダム・スミスは、身勝手な行動こそ全体の公益を最大化する、と言っています。この命題を本書の1ページ目にもってきていることになりますね。

 こうして読者は新古典派ミクロ経済学の世界へ引きずり込まれることになります。しばらく読み進めると、個人から企業へ対象が移ります。

ここでは企業を丸ごと、最適化する1人の個人のように扱う。目的はただ1つ。

 おい野郎ども、さっさと集まって利潤を最適化するんだ!(23ページ)

 企業の利潤最大化ですね。そして、ややこしい「割引現在価値」の解説をはさみ、ゲーム理論に進みます。ここで67ページですから、かなり早い段階でゲーム理論にいたります。もちろん「囚人のジレンマ」に触れ、オークションへ進みます。

 ここまででパート2です。全部でパート3までですから、全体の3分の2は、個人、個人扱いする企業、複数の個人の関係を考えるゲーム理論です。

 最後のパート3は、市場の分析方法です。「需要と供給」「限界効用」「弾力性」といった概念を、たっぷりジョークを利かせて語ります。

 つまり、バウマンは、ミクロ経済学の体系を、個人→企業→市場、という順で解説してくれるわけです。この順番は、実は非常に珍しい配列です。通常は「需要と供給」から入り、ゲーム理論には入門書では触れないか、あるいは後半で少し触れることになります。