前回まで、基本となる3つの経済思想と対応する政治思想について整理してきました。今回からはいよいよ、個々の経済思想の説明に入っていきましょう。まずは、経済学のはじまりともいえる「古典派経済学」からです。
今日の経済学の発祥といえる古典派経済学を生んだ人はだれか知っていますか。
受講生 英国のアダム・スミス(1723-90)です。経済学の父ですね。
そう。高校の「世界史」にも出てきますね。正確にはスコットランド人です。アダム・スミスがそれまでの政治経済学(重商主義の経済学=後述)を一変させて近代経済学の扉を開きました。
ポイントは3つあります。
(1)労働価値説
(2)分業
(3)市場メカニズム
順番に説明しましょう。
第1に、労働価値説。つまり、物やサービスの価値は労働量で決まるとしました。金や銀ではなく、労働による生産物が国を豊かにするというわけです。
アダム・スミス以前は、価値つまり国の富とは、金銀財宝、金貨・銀貨でした。「価値」は価格と同じだと考えてください。
13世紀からインド洋や東南アジアの海へ乗り出し、交易して稼いでいたのがヴェネチア共和国です。ヴェネチアのマルコ・ポーロ(1253-1324)が日本を「黄金の国ジパング」と書き残したことは知っているでしょう。彼は中国までやってきて、元の官僚となって17年間滞在しました。中国でジパングの噂を聞いたわけです。たしかに、日本では金や銀が豊富に産出され、12世紀の平泉は黄金の都だったわけだからね。
その後、15世紀から17世紀は大航海時代です。ポルトガル、スペイン、オランダ、英国が海外植民地を広げていきました。彼らにとって、貿易差額(輸出と輸入の差)として得る金銀こそ国富だったんだね。どうやって貿易黒字の金銀を蓄積するかが重要だった。これを重商主義といいます。重商主義がスミス以前には主流でした。スミスはこれを引っくり返し、国富は労働を投じた商品にある、としたわけです。
受講者 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉を見ていると、どうやって自国に利益を残そうとするかで対立していて、国富を貿易の黒字と考えているように思えます。
重商主義の発想は、君が言うように実は残っているんだよね。なにしろ、現在でも各国の中央銀行は金を蓄積している。これを金準備といいます。 IMF(国際通貨基金)が外貨とともに金準備を中央銀行の資産として認めているからだけれど、人間は古来、金に安定した価値があると考えているわけです。IMFが金を国富だとしているのではありませんよ。貿易などの決済手段として認めている。
世界の金準備のうち、いちばんたくさん蓄積しているのは米国です。2位ドイツの3倍近くはある。各国の中央銀行も一部を米国に預けています。現物はニューヨーク連邦準備銀行の金庫にあります。