「需要と供給」は最後に登場
独特の章立てで理解が深まる
定評のある分厚いミクロ経済学の入門書を3点ほど見てみましょう。
『スティグリッツ ミクロ経済学(第4版)』(スティグリッツ著、藪下史郎他訳、東洋経済新報社、2013)は、「需要と供給」「不完全市場と公共部門」「消費の決定」「企業と費用」などと続き、「戦略的行動」でゲーム理論が登場するのは最後から2章目、436ページです。
学士院会員のミクロ経済学者、西村和雄さんの『ミクロ経済学(第3版)』(岩波書店、2011)でも「需要と供給」から始まります。ゲーム理論は第14章(195ページ)です。
もう1つ、慶応義塾大学名誉教授、福岡正夫さんの『ゼミナール経済学入門(第4版)』(日本経済新聞出版社、2008)のミクロ編は、「家計」「企業」「需要と供給」と続き、ゲーム理論は最後から2章目で「囚人のジレンマ」に触れます。
本書『この世で一番おもしろいミクロ経済学』で「需要と供給」が登場するのはゲーム理論よりあと、130ページですから、多くの教科書とは順番が逆になっています。
8ページで本書の構造を次のように説明しています。このページは最後まで読んだあと、もう一度読むと理解しやすいでしょう。
(1)この本は、ミクロ経済学を考えるのに、まず最適化する個人を1人だけ見る。
(2)そして複数の最適化する個人同士の相互作用を見て……
(3)そして最適化する個人が大量にいる場合の相互作用を見る。(8ページ)
(2)がゲーム理論の対象で、(3)が市場メカニズムということになります。「需要と供給」より「ゲーム理論」を先に解説しているのは、全体の叙述の構造を描いているためでしょう。この順番については、著者は随所で強調しているので、まずは読者も把握しておくと、いっそう理解が深まるでしょう。
終盤にはこう書いてあります。
(1)この本はまず、最適化する個人に注目し……
(2)……それから数人の戦略的なやりとりに注目し……
(3)……そして多数の個人による競争市場でのやりとりに注目した。(194ページ)
本書を読んだあとで専門的なミクロ経済学のテキストにチャレンジする際は、章立ての順番を確認するといいです。むしろ、バウマンの順番に準拠して、合理的な行動→ゲーム理論→市場(需要と供給)という順で読むと、本書との相互作用で、うんざりするほど分厚い教科書も楽しく読み進められるでしょう。