前回触れたように、トニー・シェイは難題に果敢に挑んでいる。業績好調だとそのままになりがちだが、トニーは違う。これからの経営モデルを探る上でも、ザッポスからは目が離せない。

ザッポスのホラクラシー導入は、いま全米でも注目を浴びている。ホラクラシー(holacracy)は、肩書き・役職のヒエラルキーのもと階層構造で中央集権型で意思決定する従来の組織と真逆で、上下関係はなく組織全体に権限を分散させ意思決定させ、自走する組織をつくるための手法だ。ホラクラシーには、柔軟な組織、効率的な組織運営、役割の明確化、主体性の強化といった長所がある。

今回は、ホラクラシー導入の中心メンバーの一人、ブリロニ・アレックス氏のインタビューを中心に、ザッポスの経営革命について紐解いてみたい。

ブリロニ・アレックスに訊く
ザッポスにおけるホラクラシーとは!?

ブリロニ・アレックス
(Brironni Alex)
2011年6月に入社しCLT(Customer Loyalty Team=電話、メール、チャットなどで顧客対応する)に所属し、やがて電話チームのリーダーとなる。ホラクラシーのトレーニングを受け、公式のファシリテーター、コーチとなり、CLTの一員として仕事しながら、コーチを務めてきた。2015年4月からは、8人のホラクラシー推進メンバーの一人として、ホラクラシー導入に没頭している。在職中に学び、ネバダ大学ラスベガス校で2015年に教育心理学修士を取得。

 ザッポスはホラクラシーをほぼ教科書通りに導入していて、ザッポス独自のものはありません。

 ホラクラシーでは、チームでなくサークルがつくられます。サークルは、共通の目的のためのひとつの役割であり、それがサークル内でいくつかの役割に分かれて行きます。各サークルでは、リードリンク、ファシリテーター、セクレタリー、レップリンクなどの役割が設定されます。

 リードリンクは人でなく役割です。リーダーはいないのです。マイクロマネジメントはナシです。ファシリテーターは、ミーティングやプロセスを支援したり問題を特定します。レップリンクは、サブサークルと元のサークルのコーディネートをします。セクレタリーは、ミーティングのアレンジや記録を担当します。

 ザッポスのホラクラシーは透明性を重視しています。ザッポスでは、他のサークルのことも知ることが出来ます。サークルには様々なものがあり、人数も色々です。

(本荘修二の解説1)

 例えば、第14回で紹介したジェイミー・ノートン氏は、トニー・シェイをサポートするchief of staffだったが、いまはchief of staffサークルのリードリンクであり、また計12のサークルで役割を持っている。主には、トニー、フレッド、アルーンら経営陣のGeneral Company Circleの支援をしている。
 
 リードリンクは、管理職ではなく、サークルが目的を達成できるように世話をする役割を担っている。リードリンクが命令したり決めるのでなく、ひとりひとりが自らゴール設定など決めていく、自主性をベースにした組織だ。

ザッポスがホラクラシーに取り組む理由

 ザッポスがホラクラシーに取り組むのは、いくつかの理由があります。まず、効率的でイノベーティブな組織にするためであり、そして社員をエンパワーし自主性を高めるためです。

 これまでの組織は、意思決定に問題がありました。トップダウンの官僚的な構造で、誰を知っているかで左右され、キーパーソンとのつながりがないと実現できない、といったこともありました。

 中心となる規範としてself-organization, self-management(他にされるのでなく、自らオーガナイズし、自らマネージする)を目指しています。

 そこで、2013年始めにパイロットグループが立ち上がりました。まず人事(HR)で2チームがホラクラシーを導入し、段々と他の部署にも入れて行きました。2014年7月にCLTにも導入しました。

(本荘修二の解説2)
 
 トニー・シェイは、「都市の規模が倍になるごとに、住民一人当たりの革新性や生産性が15パーセント増えます。しかし、企業が大きくなると従業員一人当たりの革新性や生産性は一般に下がります。なので、いかにザッポスを都市のように構成し、官僚的な企業にならないようにするか、見出だそうと勤めています。
 
 都市では、人々は会社はself-organizing(自らオーガナイズ)しています。従来型の階層型組織からホラクラシーと呼ばれるシステムに移行することで、同じことをします。やることの指示をするマネジャーにレポートするのでなく、起業家のように自分で決めて行動します。」と語っている。