2010年12月の発売以来、ロングセラーとなり今年も増刷を続けている書籍『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』だが、『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』の、その後はどうなっているのか?米国現地取材をもとに、本連載の最終回から4年経ったザッポスとトニーシェイのいまを二回に渡りレポートする。

業績好調を続けるザッポス

 2015年、いまや売上高3000億円を越える勢いで、1500人規模に至ったザッポス。売上高は、

2008年 1000百万ドル
2010年 1640百万ドル
2012年 2158百万ドル

 と快進撃を続けている。社員一人当たり売上は増加を続け、もちろん増益基調だ。2014年54.5百万ドルだった営業利益は、2015年は97百万ドルの見込み(Las Vegas Review-Journal)。

 そして、いまザッポスは「ベストカスタマー戦略」を推進している。何度も戻ってくるローヤルな顧客はどういう人たちか、ユーザー体験の担当者たちがデモグラフィックを掴もうとしている。感謝、正直さ、透明性を重視しているといったユーザーの特性を理解し、どうサービスすればよいか検討をしている。このようにザッポスは、どういう顧客を求めるか、どう市場にサービスするか見極めるため、リサーチを行い、戦略を立てているのだ。

 靴で築いた顧客ベースとブランドを活かして、アパレルの売上を伸ばし、さらに顧客ベースを充実させようと努めている。顧客へのフォーカスは、ザッポス成功の鍵であったが、さらにそれを磨き上げるべく注力している。

看板のカルチャーは健在

 コアバリューに合致した人しか採用しないというが、組織が大きくなっても続けられるのかと疑問を持った人も多いだろう。

 ザッポスに入社しようと提出される履歴書は年3万通を超える。しかし、採用されるのは300人に過ぎない。実に100倍の競争率だ。これなら、コアバリューを基準とした採用を、妥協なく続けることができるだろう。

 ザッポスの顔でもあるカスタマーロイヤルティーチーム(CLT)では、約600人が毎日5000から1万の電話、電子メール、チャットなどに対応している。ここでもカルチャーは健在だ。

 顧客からの(「ザッポス伝説」時より長い)8時間という長電話に対応したオペレーターのベッツィーさんは、にこやかに、しかし自慢や偉そうぶることもなく、自らの経験を語る(なお、現在の最長記録は10時間超)。

 新たな工夫も加えられている。フレックスタイムもさらに充実させている。社員一人ひとりが毎月、いっしょに仕事をしている誰かに50ドルの同僚ボーナス賞を提供する機会がある。

 これもそうだが、ザッポスでは社員が互いに評価する。ザッポスの人の評価は色々な方法があるが、ピア・ベースの360度考課によるところが大きい。

 毎年、各コアバリューについて問われる。例えば、彼は私を「ワオ!」と言わせた、というように、近しく働いた人が評価をする。1=neverから5=alwaysまで五段階で採点し、体験を記述する。

 アルゴリズムが設定されていて、自動的に評価票が評価者に送られる。これ以上、さらに多くのフィードバックを求めることも可能だ。普通は10-15人分を受け取る。ひとつ20分くらいで記入できる。とても多いと30人分くらいを評価するが、2ヵ月の評価期間があり、毎週一時間くらい使うという。

 なお、2013年には、筆者も応援している日本人の世界ヨーヨーチャンピオンBLACK氏がザッポスの全社集会で登壇した。これもTEDでのBLACK氏のパフォーマンスとプレゼンを観て感動したトニー・シェイが、ザッポスのみなに体験させたいと呼び寄せたのだ。詳しくは、BLACK氏のブログをご覧あれ(「ラスベガスにて、Zappos様の全社ミーティングに登壇させていただきました」 )。

 また、昨年末には社員作のビデオのコンテストを開き、優勝した作品は実際に(短く編集したものが)テレビCMに使われた(I'm Not A Box )。

 このように、あの手この手でカルチャーを築くザッポスらしさは、やむことなく続いている。

 ちなみに、最近CLTに加わった新入社員が絵を描くのが得意だと言うと、「じゃ描いてみて」と言われ、壁に描くと、「これはいい!」となって、いまでは社内に絵を描くことが仕事になってしまった。上から仕向けられてではなく、カルチャーが現場に息づいているから起こった、ザッポスらしいエピソードだ。