廃業の危機を救った
伊藤忠商事の資金援助
じつは、当時ライブドアの社長を務めていた堀江貴文氏もミドリムシの可能性に興味を持ち、ユーグレナに出資をしていました。ユーグレナは六本木ヒルズ38階にあったライブドア本社の片隅を間借りしていたほどで、両社の関係は近しいものでした。メディアの矛先がユーグレナに向かうのは時間の問題だったのです。案の定、ライブドアと関係があったというだけで、ユーグレナもミドリムシも世間から嫌われてしまいました。この日以降、すべての風が逆向きに吹き始めたのです。1月17日から約1ヵ月間、出雲氏は事業を諦めるかどうするか考え続け、そして決断します。
僕には、いつでも財布に入れて持ち歩いているものがある。
それは2006年2月17日の日付が入った、銀行の振込明細だ。
その日、僕はユーグレナを続けることを決めた。ライブドアに出資してもらっていた分の株式を、自分の貯金で買い取り、関係を断つことにしたのだ。(143ページ)
しかしながら、06年2月17日からの3年間はなにをやってもうまくいかず、試練と苦難の日々が続きました。『上手な会社の潰し方』『人に迷惑をかけない破産の仕方』といった類のタイトルの書籍を買い求め、それらを暗い気分で読みふけり、人がいないところでよく泣いていたそうです。
資金ショートの危機が続くユーグレナでしたが、たった一つだけ望みが残っていました。その希望とは、大手商社の伊藤忠商事が資金援助を検討してくれていることでした。そして08年5月、ついに伊藤忠商事から出資を受けることが決まりました。この日を境に、ユーグレナをめぐる環境は劇的に変わっていくのです。
「あの大会社の伊藤忠が応援している」
「東大で研究していて、世界で初めてミドリムシの大量培養に成功したらしい」
「まだ日本のユーグレナというベンチャーしか持っていない。世界初の技術だ」
そんな理由で、石油会社や、航空会社、ゼネコンなど、徐々に興味を持ってくれる企業が現れた。それまでの苦労が、まるで嘘のような展開だった。(173ページ)
ですから、今回の「企業広報経営者賞」にあって、伊藤忠商事・岡藤社長とユーグレナ・出雲社長の同時受賞は、偶然の為せる業とは思えないのです。神様のイタズラ、とでも言うしかない。9月14日に予定されている授賞式で出雲氏がどのようなスピーチをするのか、楽しみではあります。