小さな点から始まって、やがて世界を塗り替えてしまうようなアイデア。一生のうちに何度かそんなイノベーションを目の当たりにする。そして、世界は一度塗り替えられてしまうと、塗り替えられる前の世界を想像することが難しくなる。これが、世界が変わり、時代が変わるということの本当の意味である。
エニグモが生み出した「バイマ(BUYMA)」は、世界中のバイヤーをネットワークすることで、まったく新しいマッチングを創出し、世界のモノと人の関係性に変化を与えようとしている。一方、ユーグレナが世界で初めて人口培養に成功した「ミドリムシ」は、世界の食料問題、そしてエネルギー問題を解決する可能性を秘めている。この2社に共通するのは「世界初」を目指して達成し、世界規模の変化を巻き起こそうとしていることにある。
株式会社エニグモ代表取締役最高経営責任者・須田将啓氏、株式会社ユーグレナ代表取締役社長・出雲充氏が掲げる、ほんとうの意味での「世界展開」とは何なのか?前編に引き続き、起業ストーリーから語り合っていただいた。(取材・構成:森オウジ/写真:宇佐見利明)

「事業計画書ほど役に立たないものはない」
起業しないほうがいい人の特徴とは?

出雲充(いずも・みつる)[株式会社ユーグレナ 代表取締役社長]1980年、広島県呉市生まれ。東京大学農学部卒業。東京大学在学中の1998年、バングラデシュを訪れ、世界に存在する本当の貧困に衝撃を受ける。2年後の2000年、「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」のことを知り、世界の「食料問題」と「環境問題」を同時に解決できるそのポテンシャルに魅せられるも、培養技術が確立していないという壁の前に、一旦は事業化を断念。2002年、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。2005年8月、株式会社ユーグレナを設立し、社長就任。東大発のバイオベンチャーとして注目を集める。同年12月には、世界で初めてユーグレナ(ミドリムシ)の屋外大量培養に成功。食品、機能性食品、化粧品、飼料、そして燃料と、数多くの分野で事業化を目指している。2012年、2012年世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader 2012 選出。著書に、『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』がある。

出雲 しかし振り返ってみても、つくづく起業というものは「上から下まで準備が整ったから、大丈夫ですね?何も問題ありませんね?では、始めましょう」と言ってスタートするようなものではないですね。

須田ビジネスモデルって本当に「積み木」みたいなものだ、とよく思います。机の上の、無風の状態で積み木を組み立てて、好きな家をつくる。これがまあ、事業計画書のようなものです(笑)

出雲 わかります。予想は全部外れますからね。タウンページみたいな事業計画書が、まったく役に立たなかった。

須田 そうですよね。で、そうやってつくった積み木を外に持っていったとたん、風も吹くし、災害も起こるので、すぐ崩れてしまう。懸命にチューニングして、なんとかかたちを保たなければならない。これが「起業」だと思います

 外に出ても崩れないようにするためには、一生懸命いろいろ継ぎ接ぎをしていって、なんとか形を保とうと努めるしかない。そうやってようやく一人前になる。テクニックがあるとすれば、もう臨機応変にやるしかないということ。ただ、「こういう形にしたいんだ!」という想いだけはブラさないで続けていれば、不恰好かもしれないけど、その形になると思います。

出雲 それでもなんとか保っていられる人に、先輩方は手を貸してくださるんですよね。口では「甘い」とか「全然だめ」とか言うんですけど、「でもまあ、お前起業してるし、しょうがないな」ということで、人を紹介してくださったりする。今までなんとかなった時は、いつもそんなきっかけから打開策が見えてくる、という感じでしたね。

 だからよく起業するコツなんて聞かれるんですけど、返答に窮するというか(笑)。起業というのは、絶対に失敗するものです。失敗ベースなんですよね。その認識がないと、そもそも起業はしない方がいい

須田 積み木を部屋の中でつくっていても自己満足で終わる以上、そうとしか考えられないですね。やりたいこと見つけたら、やっちゃうしかないなって思います。

 僕はよく「旗を立てる」って言っているんですが、つまり、考えているだけだと、外から見ると何もしていない人とまったく一緒なんですよね。「オレはこんなこと考えてるんだ」って“旗”を立てるのが、「行動する」ってことだと思うんです。行動することでいろんな人から「一緒にやろうよ」とか、「ウチと組みませんか?」とか、そういう動きがどんどん出てきて、それをヒントにまた新しいアイデアが出たりビジネスがブラッシュアップされたりしていく。行動して、世界に旗を立てるっていうことが、一番大事だと思います