小説のタイトルにもなったブラームス

 一般に知られるブラームスは髭面で重厚、近寄り難いイメージです。しかし、実際は、音楽と人生の師匠であるシューマンの妻クララに激しい思慕を抱く若者でした。そんな男が書く音楽です。クラシックの巨匠の権威に彩られている仮面を剥がせば、もっと奔放で赤裸々な美しくも激しい音楽の正体が見える、いや聴こえます。

弦楽六重奏曲第1番変ロ長調・作品18」(写真はアマデウス・クァルテット盤)は、ブラームス27歳の作品。クララへの禁断の想い、アガーテという女性との失恋等々、心の内なる疾風怒濤が若きブラームスの創造中枢に大いなる影響を与えました。この第2楽章には、切なく激しい愛の旋律が漲っています。この弦楽六重奏曲はヴァイオリン2、ビオラ2、チェロ2という編成で、弦楽四重奏に比べ低音が厚くなっています。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲群を聴くにつけ、圧倒された若きブラームスは誰も試みたことのない編成で新しい響きを生み出したのです。しかも、今に通じる情熱的な旋律で。この曲は、1958年ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したルイ・マル監督、ジャンヌ・モロー主演の「恋人たち」の主題曲として世の映画ファンを唸らせます。まるで映画のために書き下ろされたようにフィットします。

 また、恋愛小説の巨匠フランソワーズ・サガンに「ブラームスはお好き」という名作があります。自立した美しき女性が若く魅力的なプー太郎と成熟した紳士の間で揺れる物語です。タローイングリッド・バーグマンとイヴ・モンタンの主演で「さよならをもう一度」として映画化されました。その主題曲こそブラームスの「交響曲第3番第3楽章」(写真はクラウディオ・アバド指揮ベルリンフィル盤)です。これは、もう現代の映画音楽家も真っ青な美メロの嵐です。哀愁の旋律が内に秘めた熱い欲望を垣間見せます。

 ブラームスの同時代性を証明するのが「交響曲第4番」(写真はカルロス・クライバー指揮ウィーンフィル盤)です。その第2楽章がイエス「こわれもの」(写真)に登場します。稀代のキーボード奏者リック・ウェイクマンによるシンセサイザー等多種多様な鍵盤での多重録音ヴァージョンです。これは聴きものです。

 要するに、優れた音楽には何の壁もありません。国境も時代も教養もジャンルも超えてただただ聴く人の心を感動で満たすのです。バッハ、ベートーヴェン、ブラームスがそれを証明しています。クラシック音楽は苦手という人でも、聴けば、その美しさに心が開かれるはずです。是非、お試しを。

(音楽愛好家・小栗勘太郎)