13日(水)からカンヌ国際映画祭が開幕しました。第1回が第二次世界大戦終結の翌年、1946年に開催されから今回で68回を数えます。
ビジネスとしての映画を語れば、米ハリウッドが世界を席巻していますが、映画の持つ芸術の香りを際立たせているのは、フランスのカンヌだ、とも言えるでしょう。歴代のパルム・ドール受賞作品は、国籍や言語や時代を超える、映画の持つ無限のチカラを見せつけてきました。そしてカンヌは、映画において音楽の果たす役割がいかに大きいかをも証明します。
今回は1950年代から2000年代まで、各時代の受賞作を年代順に厳選します。ボサノバ、ジャズ、ポップ、クラシック等々多様なジャンルに及んで奏でられる音楽は、さながらカンヌが認めた「映画の王国」に存在する「音楽の楽園」という趣です。
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ブラジルの新興音楽ボサノバに
いち早く注目したカンヌ映画祭
◆「黒いオルフェ」(1959年)
1959年のパルム・ドール受賞作「黒いオルフェ」のマルセル・カミュ監督は、ギリシア神話のオルフェウスとエウリディーチェの物語を下敷きに、リオデジャネイロを舞台に欲と嫉妬に彩られた男女の激しい愛を描きます。音楽はボサノバの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンと、ルイス・ボンファです。
サウンドトラック盤(写真右)は、サンバの強烈なリズムの中から産声をあげたボサノバ黎明期を今に伝えます。特に、甘美にして官能の夜が明けた時に流れる“カーニバルの朝”は、ボンファ作曲の初期のボサノバを象徴する名曲です。生ギターにしか表現できないアンニュイな和音と旋律。そして、ジョビン作の“フェリシダーゼ”など、数々の旋律がアンニュイな雰囲気を醸し出します。
1959年当時、ボサノバはブラジル国内の新しい音楽にとどまっていました。それにスポットライトを与えたのがカンヌ映画祭です。先見の明と言うべきでしょう。何故ならば、ボサノバが世界を席巻するのは、スタン・ゲッツとジョビンが共同した“イパネマの娘”ですが、それは「黒いオルフェ」から更に4年後のことです。
そして、ボサノバ創生のもう一人の偉人は、映画「黒いオルフェ」の原作となった戯曲「オルフェウ・ダ・コンセイサゥン」の作者にして”イパネマの娘”の作詞家である、詩人で外交官のヴィニシウス・ヂ・モライスです。実は、モライス没後10年の1990年1月、リオデジャネイロにてモライスの追悼コンサートが開催され、ジョビンもピアノと歌で盟友を偲びました。それが「ジョビン、ヴィニシウスを歌う」(写真左)です。カンヌから31年余、ボサノバの旅路を実感できる名盤です。