先日21日、証券業界のガリバーといわれる「野村証券」に衝撃が走った。インサイダー取引の疑いで、同社の「企業情報部」に勤務していた中国人社員 厲瑜(れい・ゆ)容疑者(30歳)が逮捕されたのだ。共犯として知人の中国人男性2名(蘇春光容疑者/蘇春成容疑者 ※2人は兄弟)も逮捕された。3人は、野村証券の企業情報部が手がけていたM&AとTOBの内部情報を利用し、上場会社の21銘柄を売買。金額にして4000万円前後の利益を得ていたものと見られている。

 野村証券自体、10,000人も社員がいる会社であるので、どんなに会社がコンプライアンス体制を整えようと、最終的には個人が不正をやろうと思えばできる仕組みになってしまっているのが現実だ。それはどの会社にもいえることである。

 しかし、今回の問題が発生した野村証券の「企業情報部」という部署は、他の部署とは大きく事情が違う。投資銀行業務の中枢を担っており、インサイダー情報が集積する場所である。

 年間のM&Aの扱い件数は、上場企業に限っても150件から180件に及んでおり、潜在的な案件数は、この数10倍に達すると思われるので、とりわけ厳重な情報管理体制が敷かれているのである。対象となる企業名は一切伏せられ、「AQUA」とか「LILLY」といった「コードネーム」(暗号)で呼ばれる。

 また、チーム間の情報交換も禁止しており、本来は隣の担当者が何の案件に従事しているかも分からない仕組みになっていたはずである。(実際には、厲瑜容疑者が行なったとされた内部者取引の約半数は、自分の担当以外の案件であるということである)

新人がいきなり中枢部門に!?
人材配置で大きな判断ミス

 そもそも企業情報部は、お客様にアドバイスをする部署であるという性質上、“新人”が配属されるような場所ではない。(注:厲容疑者は、2002年に京都大学卒業後、他企業勤務を経て、2006年2月に野村証券に入社。すぐに「企業情報部」に配属されている)今回のように、いきなり新入社員がここに配属されたというのは非常に奇異な感じを受ける。おそらく海外での投資銀行業務を行なうにあたり、日本で修行させて海外の現地法人に異動させるということを考えての人事だったのかもしれない。

 それにしても、この「企業情報部」は、非常に高い倫理観が求められる証券会社の中でも、とりわけ慎重に対応しなければいけない部署であるため、他の部署である程度経験を積んで「この人であれば問題ない」「この人ならふさわしい」という人物を選んで配属しなければいけない。であるため、今回の事件で最も反省すべき点は、『その人物(容疑者)をそこ(企業情報部)に配属してしまったこと』に尽きる。