中国のGDPが年内に日本を追い抜くことが確実となり、日本国内で中国脅威論が高まるなか、米国と中国は台湾への武器売却や人民元問題、グーグル問題などで亀裂を深めている。中国はこれからどこへ向かうのか。米中・日中関係はどうなるのか。中国生まれで、同国の事情に詳しい国際政治経済学者のミン・ワン ジョージ・メイソン大学教授に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

ミン・ワン
(Ming Wan)
ジョージ・メイソン大学グローバル問題研究プログラムのディレクターを兼務。専門は国際政治経済、東アジアの政治経済、中国・日本の外交など。ハーバード大学で政治学博士号を取得したが、その間に筑波大学で客員研究員を務める。中国を頻繁に訪問し、中国の政界・財界に広い人脈を持つ。著書に“The Political Economy of East Asia: Striving for Wealth and Power”(2008)、“Sino-Japanese Relations: Interaction, Logic and Transformation”(2006)などがある。

―中国が世界第2の経済大国になることはどんな意味をもつか。

 それは日本や米国にとっては象徴的かもしれないが、中国にとっては実質的にあまり大きな意味はないのではないか。日本人は世界の何番目かという相対的ランキングを非常に重視するが、GDPが第2位になることで中国が世界第一級の大国になるわけではない。中国の一人当たりのGDPは日本や米国よりはるかに小さいし、企業の技術力や競争力もそれほど高くない。

 ただ、中国の指導者は自信を深めて自己主張が強くなり、それが日本や米国との関係に微妙な影響を与えるかもしれない。

―中国の経済大国化は国内の民主化や言論の自由を促すか。

 それについてはいろいろ議論されているが、現在のところその兆しは見られない。労働市場や雇用、社会生活などは以前よりオープンになったが、人々が最も重視する言論・宗教・結社の自由、政治的権利などはほとんど前進が見られない。いや、むしろ後退しているように思える。

―中国はこれからどこへ向かうのか。

 将来的にはシンガポールのような国家(一党支配だが開放経済で社会福祉制度が充実し、メディアを厳しく規制している)を目指していると思うが、それは難しいだろう。シンガポールは小国だから可能なのであり、中国のような大きな国でこの制度を導入するのは難しい。

 一般的にどの国でも近代化や経済発展が進むと、中産階級が増えて市民生活が成熟し、政治の民主化が促進される。東アジアの国々でもそれは起こっている。ところが中国ではその傾向は見られないし、近い将来大胆な政治体制改革が行なわれるとも思えない。唯一期待できるとすれば中央政府レベルではなく、地方の政府や社会制度などでポジティブな変化が起こるかもしれないということだ。