ある大手企業の新入社員研修で、「仕事への心構え」の講師を務めました。新人同士の対話(ダイアロー グ)による研修です。「なぜ、この会社を選んだのか」、「なぜ給料をもらえるのか」などのテーマについて、話し合わせて発表させるのですが、他者の意見に 耳を傾けることで、多くの気づきが得られたようです。それ以上に、教える立場であるはずの私自身に多くの発見がありました。今回は、この「仕事への心構え 研修」についてご紹介します。(ダイヤモンド社人材開発事業部副部長・間杉俊彦)

「仕事への心構え」こそ
入社直後に考えてほしい

 研修対象の新入社員は約50名。これを5名ずつ10グループに分けて、それぞれのグループ内で対話をし、その結果を発表するというスタイルで進めま した。発表については私が短くコメントし、また若干のレクチャーをするという構成です。

 対話(ダイアローグ)については、前回もご紹介し たように中原淳・東京大学准教授(教育学)と長岡健・産業能率大学教授(組織社会学)の考え方と手法を踏襲しています(『ダイアローグ 対話する組織』ダイヤモンド社刊)。

 そもそも、この研修を企画提案したのは、ビジネスマナーやスキル以前に、「仕事への心構え」を身につけてもらうことが必要である、と考えていたからです。 すでに、この考え方に基づいて、入社3年目以内の若手社員を対象にした「ザ・ファースト・ステップ『一人前の仕事力』」を刊行しています。その著者の1人である松尾睦・神戸大学大学院経営学研究科教授によれば、「一人前になるためには、よく考えられた訓練と、仕事に対する正しい信念が必要で ある」。正しい信念を持つためには、最初に仕事への心構えを正しく身につけさせることが大事、と考えたのです。

 それについて、なぜ対話という手法を採ったかというと、仕事への心構えについて絶対の正解は無く、むしろ、社会人に成り立てとはいえ、個々人のなかに無意識にしても正しい答えが存在しているはず、と考えたからでもあります。外から与えられた情報の処理は間違いなく身につけるべきスキルですが、「答えの多くは自分のなかに眠っている」ということを実感してもらいたい、という思いもありました。

 この研修では、3つのテーマで対話をして もらいました。「なぜ、この会社を選んだのか」、「給料はなぜもらえるのか」、「どんな社会人になりたいか/どんな仕事をしていきたいか」という3つです。