日本のハイテク産業の生命線であるレアアース(希土類)が高騰し、日本経済に暗い影を落とそうとしている。背景には、世界生産の大半を占める中国の“異変”がある。
レアアースとは、合金に混ぜることで素材の性能を高める調味料のようなレアメタルで、磁力を強めるネオジムや高温でも磁力を保つジスプロシウムなど17に分類される。日本が強みを持つエコカーや省エネ家電、産業機械などに不可欠な存在であり、まさに日本経済の命綱といえる。
その生産量の97%を握る中国で今、レアアース鉱山の閉鎖が続出しているのだ。
というのもジスプロシウムなど中重希土の主な産出地である南部の鉱山では、違法な採掘業者が跋扈していた。特に「広東省では9割が違法」(総合商社)といわれるほどで、乱開発による環境破壊が深刻化していた。
中国当局はこれまで静観していたが、今年に入って取り締まりを本格化させ、違法採掘を軒並み閉鎖に追い込んだのである。
その結果、価格が上昇。双日によると、1年前に1キログラム140ドルだったジスプロシウムは足元で280ドルと2倍に高騰。ネオジムは1年前の2・4倍となる同43ドルで取引されているという。
価格高騰は、中重希土のみならず、触媒や研磨剤、蛍光体などとして幅広い産業で重宝される、セリウム、ランタンといった軽希土にも広がっている。
これらは主に中国北部で産出されるが、北方鉱の供給を握る大手の包鋼グループが、原料の供給や流通を支配することで価格コントロールを狙っていることが背景にはあると見られる。大手商社担当者は「相次ぐ閉山、そして企業側の意図的な供給の抑制に加え、投機的な資金の流入も価格の急騰を加速させている」と分析する。
さらに中国国内におけるレアアース需要が旺盛なことも重なって、日本への安定供給不安までもがにわかにくすぶり始めているのだ。
専門商社の担当者は「昨年までと状況は一変し、中重希土のジスプロシウムなど調達が難しくなったレアアースが出てきている」と打ち明ける。
中国では、レアアースを輸出する企業に輸出許可枠(EL)が割り当てられ、その範囲内でしか輸出はできない仕組みになっている。ところが、EL自体を企業間で貸与する動きが活発化したことで、より高値で取引される中重希土ばかりが輸出される事態が起こっている。その余波で、軽希土にも供給不安が浮上するという悪循環に陥っているというのだ。
多くの関係者は、少なくとも7月頃までは価格の上昇が継続すると読む。その影響はボディブローのようにじわりと日本の産業に効いてくる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)