なお、高額な体外受精だが、その費用には地方自治体からの支援もある。「不妊に悩む方への特定治療支援事業」(厚生労働省所管)だ。給付内容は当時で「1回15万円、1年目は3回まで。2年目以降2回まで。通算10回を超えない」というものだ*6。ただしこれには所得制限が設けられている。所得は夫婦合算で730万円未満でなければならない(2015年時点。かつては650万円未満だった)。

 そうした支援があってもなお、負担額は大きい。「給付金を受けても出費のほうが上回ります。いくらお金を注ぎ込み、日々、妊活に効果があるといわれるサプリやお茶を飲んでも結果が出ません。まるで出口のない迷路に迷い込んだような気持ちでした」。

 給付金の支給も限りがある。それを超えるとすべて自己負担だ。経済力のある者しか不妊治療は続けられない。それでもわずかな期待に賭けたが、何年たっても子宝を授かる気配もない。そんな様子を、夫は「まるで司法試験を何年も受け続ける万年受験生だ」と揶揄する。もう夫婦仲は既に修復不可能な状態に陥っていた。

 体外・顕微受精ともなれば、女性側の苦痛も大きくなる。検査や移植の後、腹痛に頭痛、吐き気といった副作用を催すこともしばしばだ。いきおい、家事もままならない。近所に住むカナミさんの母親が家事を手伝うこともあった。夫は、「居もしない子どものことで家族全員が徐々に狂ってきた」と感じた。

 カナミさんの前夫は当時を振り返り吐露する。「たとえ子どもがいなくても、仲のいい夫婦は世の中にはたくさんいるはずです。それを前の妻にもわかってほしかった。実家のご両親まで巻き込んでしまって。結局、前妻、私、前妻のご両親、皆がきつい思いをしただけの妊活でした。どこかで私が区切りを設けるべきだったのかもしれません」。

“収益性の高いビジネス”として
リスクを説明しない医療機関も

 医療界でも、不妊治療の高齢化・長期化への懸念の声は大きい。一つは母体の危険性の増加、もう一つは生まれてくる子どもへの影響だ。

 マスコミでも積極的に発言する産婦人科医師の一人は言う。「使用する薬の副作用で、将来的に、血栓症の他、乳がん、子宮がんリスクが高まるといわれています。また不妊治療中は抑うつ状態になる人も少なくありません。そして、生まれてくる子どもにはよく伝えられるダウン症リスクがあります。40歳では100人に1人、45歳以上だと30人に1人といわれます。決して低い数字ではありません。他にも脳性麻痺や発達障害など、産まれてきた子どもは何がしかのリスクを背負う確率が高い」。

*6:2013年度以前の、不妊治療に必要な費用の一部を助成する「不妊に悩む方への特定治療支援事業」の助成対象範囲。2014度から、新たに助成を受ける人のうち、初めて不妊治療を受ける女性の年齢が40歳未満ならば通算助成回数は6回までと制度が一部変更された。2016年度からは、初めて不妊治療を受ける女性の年齢が、40歳未満ならば通算6回まで、43歳未満ならば通算3回までに改正される。いずれも年間の助成回数、通算助成期間の制限はない。