妻に「2人目が欲しい」と言われても
1人だって育てる自信も気力もない
「妻は2人目が欲しいと言っているが、今の収入では1人だって育て切る自信がない」
東海地方に住む佐藤正志さん(仮名・38歳)は、あきらめ顔だ。超就職氷河期に大学を卒業した佐藤さんは、ずっと非正社員。職を転々としてきた。今は業務請負契約で食品販売の営業をしているが、保障される報酬は月わずか10万円。あとは歩合給となる。地元の景気は決して良いとは言えず、月収は良くて15万円程度。国民健康保険や国民年金の負担も重い。土日は日雇いで引っ越しなどのアルバイトを入れている。
5歳年下の妻は派遣で事務の仕事をしていたが、「妊娠解雇」に遭って以来、面接を受けても小さい子がいることを理由に断られ、仕事に就けないまま3年が過ぎた。家計は厳しく、佐藤さんは毎日会社に弁当を持参。「ペットボトルのお茶なんて、もったいなくてとても買えない」と、水筒を持って節約に励んでいる。家計は火の車だ。
国立社会保障・人口問題研究所が行った「生活と支え合いに関する調査」(2012年)では、過去1年間に経済的な理由で家族が必要な食料が買えなかった経験を持つ世帯について調査している。両親と子どもがある世帯の「二親世帯」(二世代)を見ると「まったくなかった」は83.5%を占めるが、「よくあった」(1.5%)、「ときどきあった」(4.7%)、「まれにあった」(9.9%)となり、合計で16.1%もの世帯で食料の困窮状態に陥っている。佐藤さんも、給料日前の買い出しは財布とにらめっこだ。
佐藤さんは、できるだけ仕事を入れて収入を得ようとしているため、週に1日も休むことができれば良いほうだが、休みを取った日は1歳になった子どもと思い切り触れ合う。つたい歩きを始め、よちよちと数歩歩く姿を見て、「今が可愛い盛りだ」と、成長するたびにいつも思う。近所の公園に行くと、わが子は他の子どもたちと楽しそうにしている。
そんな姿を見るたびに、妻は「再就職もできない今だから、逆に産めるはず。子育てが一段落したら働けば、お金はなんとかなる。子どもにとっても、私と1対1でいるより、妹か弟がいるほうが良い」と佐藤さんを説得するが、佐藤さんは「今の仕事もいつなくなるかわからないし、体力勝負で限界がくるはず」と思うと、どうしても前向きになれない。
もともと、女性が年齢を重ねるにつれて妊娠しにくくなる状況は「卵子の老化」などと呼ばれ、晩婚・晩産化からくる「2人目不妊」が問題視されていた。だが、より深刻なのは前述した雇用の不安定さなどの経済要因からくる「2人目不妊」だ。一般財団法人1more Baby応援団(理事長・森まさこ氏)が今年5月に発表した『夫婦の出産意識調査2015』によると、「子どもは2人以上が理想」と答えた既婚者が79.6%と過去最高になり、2013年から連続で増加し、10ポイント上昇したという。一方で、『2人目の壁』を実感すると答えた人の割合も高く、全体の75.0%に上った。