「ある医療モール運営会社から熱心に誘われたが、あまりメリットを感じないので、そこでの開業は見送った」──。
現在、都内の大学病院に在籍し、開業準備中の医師は語る。
医療モールとは、ビルなどの同じ建物内に複数の診療所が入居する事業形態のことだ。地主やビルのオーナーにとっては、イメージがよく、不景気にも強いという印象があるため、近年、大都市圏を中心に増えてきた。
しかし、最近は新規開業の際に診療所集めに苦労したり、入居した診療所が抜けたりで、“歯抜け状態”になった医療モールも増えている。ある運営会社の営業担当者は「最後の一つがなかなか決まらないことが多くなった」と嘆く。
今年に入って以降、厳しさはさらに増している。開業や支店開設など、初期投資の負担に耐え切れず、「メディカル・コンプレックス」の名称で知られる日本複合医療施設や、都内や札幌で「ドクトルズ」を運営していたメディカル・ハイネットといった医療界で有名な医療モール会社の破産が相次いだ(モール内の診療所の診療は継続中)。「急に目立ってきた印象で、今後も続く可能性は高い」(帝国データバンク東京支社情報部の阿部成伸氏)。
そもそも医療モールは、開業する医師にとって目新しさからくる集客メリットと、互いに患者を紹介し合うという相乗効果が期待できるというのが“ウリ”だった。
ところが、相次ぐ設立で、都心部では医療モールが乱立気味となり、かつてのような目新しさと集客効果がなくなりつつある。ほかに患者を紹介せずに、患者を囲い込むことも多い。ある医療コンサルタントは「たとえば、花粉症ならば、耳鼻科や眼科には行かずに、行きつけの内科ですませてしまう患者が大半。医療モール内で複数の診療を受診する患者は10%もいたら多いほうだ」と指摘する。
少なくとも単なる医療モールという形態だけで、医師や患者が集まる時代は終わったことは確かだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)