ビジネスパーソンに必須の50のフレームワークを解説する『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』の執筆者でグロービス経営大学院教授・嶋田毅氏に聞く、フレームワークの活用法。今日は、フレームワークは「根拠」「印象操作」にも有効というお話しです。
「根拠」として使えるフレームワーク
フレームワークは何かを主張する際の根拠としても有効です。
まず、前回も触れましたが、論理的なコミュニケーションのための超重要フレームワークとして、「ピラミッド・ストラクチャー」を紹介しましょう。これは、元マッキンゼーのバーバラ・ミント氏が開発したもので、コンサルティング会社などでは定番の論理構成ツールです。
ピラミッド・ストラクチャーは、図のように一番上にメインメッセージである主張(当初は仮説。根拠が揃うにつれて、確固たる主張となる)があり、その下に主張を支える2〜4つの根拠(キーライン)、さらにその下には根拠を支えるそれぞれの根拠があるという、ピラミッドのような構造になっています。
完成したピラミッドは、どの階層をとっても、上段から下段に向かっては「Why?(なぜ?)」に答えるという関係でつながっています。つまり、
「(主張)です」→「なぜなら、(根拠A)、(根拠B)、(根拠C)だからです」
「(根拠A)です」→「なぜなら、(根拠A―1)(根拠A―2)(根拠A―3)だからです」
という関係にあるのです。
一方で、下段から上段に向かっては、「So What?(だから何?)」に答えるという関係でつながっています。
「(根拠A)、(根拠B)、(根拠C)です」→「だから(主張)が言えます」
「(根拠A―1)(根拠A―2)(根拠A―3)です」→「だから(根拠A)が言えます」
図の例では、
「(主張)Aさんを懲戒解雇すべきだ」
なぜなら
「(根拠A)Aさんは懲戒解雇されても反論できないような重大な裏切りをした」
「(根拠B)Aさんはパフォーマンスも低く、むしろいない方がまし」
「(根拠C)Aさんの仕事は十分に他の人間でカバーでき、その方が生産性向上が見込める」
という関係があります。
逆に、
「(根拠A)Aさんは懲戒解雇されても反論できないような重大な裏切りをした」
「(根拠B)Aさんはパフォーマンスも低く、むしろいない方がまし」
「(根拠C)Aさんの仕事は十分に他の人間でカバーでき、その方が生産性向上が見込める」
だから
「(主張)Aさんを懲戒解雇すべきだ」
ということが言えるのです。
この関係はピラミッドのどの階層でも成り立つようにします。
このように論理の構成がきれいに可視化されていれば、仮に主張に違和感を持ったとしても、その人がどのような筋道で物事を考えたかが明確なため、建設的な議論につながりやすいというメリットがあります。
また、特に下から上に向けての「So What?(だから何?)」の質問に対する解釈を研ぎ澄ますことで、メインメッセージそのものを、より説得力がありエッジが立ったものにできるというメリットもあります。
主張を支える柱にフレームワークは最適
さて、上に示したピラミッド・ストラクチャーの図をもう一度見てください。
このなかで主張を支える最も重要なパートは、主張の1段階下の部分、「キーライン」と示した部分です。ここがしっかりしているということは、主張の根拠がしっかりしているということですから、論理構成の安定感が増すことになります。
そのイメージが下図です。どっしりとした太い柱で支えられた主張は容易なことでは揺るぎません。
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一方で、下図のような脆弱な柱にしか支えられていないような主張は、当然脆弱なものとなります。バランスも悪く、いまにも折れてしまいそうです。
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勘のいい人はおわかりかと思いますが、フレームワークを適切に用いると、何かを主張する際に、主張を支える柱が前者の図のように「どっしりとした柱」になるのです。
たとえば、事業戦略について提案するのであれば、やはりオーソドックスですが「3C」のフレームワークが柱として役に立ちます。
「(主張)○○という提案をしたいと思います」
なぜなら
「(根拠A)市場・顧客(Customer)の状況は△△となっています」
「(根拠B)競合(Competitor)については、□□の対策をうつ必要があります」
「(根拠C)自社(Company)の××の強みをさらに活かせば、大幅に競争力を高めることが可能です」
といった感じです。
この柱は、状況によってさまざまな応用が考えられます。
たとえば、女性が離婚問題を考えるのであれば、
「(主張)離婚しようと思います」
なぜなら
「(理由A)愛情に関しては●●で復活する見込みはありません」
「(理由B)子どもの問題に関しては▲▲という対応をとることで、子どもに不利益はありません」
「(理由C)経済的な問題に関しては、■■なので全く問題はないと考えます」
などといった形になります。
離婚問題というイシュー(論点)について根拠を示す上で、「愛情」「子ども」「経済力」というフレームワークで論理構造の柱を作ったわけです。
厳密に言えばほかにも議論すべき要素はあるかもしれませんが、この3本がしっかりしていて「離婚したい」という結論が出ているのであれば、それを覆すのは難しいでしょう。
自分の主張を支える柱をどう選ぶかは、説得力を高める上で非常に重要です。
仮にこの例で、柱を「愛情」「慰謝料」の2本にしてしまうと、とたんに根拠を支える柱としては脆弱なものになってしまいます。
子どもがどうなるかということについて全く考えられていませんし、経済(今後の生活)の問題についても、慰謝料の額だけ考えるのではまったく不足だからです。
目的や論点に照らして適切なフレームワークを選ぶ必要があるのです。
「みんなが知っているフレームワーク」だから
コミュニケーションが効率化する
さて、どっしりとした柱としてフレームワークを使うことが有効という話をしましたが、そのフレームワークは、一般によく知られているものの方がコミュニケーション効率は上がります。
先の離婚問題のように、オリジナルのフレームワークを作らざるを得ないというケースであれば話は別ですが、幸い、ビジネスの世界には先人が開発したビジネスフレームワークが豊富にあります。
これを使うことは、ある意味、ビジネスの共通言語を使っているようなものなので、聞いている方としても引っかかりなく頭に入ってきやすいですし、相手がどのような思考パターンで物事を考えたのかが見えやすいので、同意するにせよ反論するにせよ、議論が発展しやすいのです
たとえば新規事業への参入の是非を議論するのであれば、「市場の魅力度」と「競争優位性構築の可能性」の2軸で判断するという有名なフレームワークがあります。ですので、論理構成として、
「(主張)Z市場に参入すべきです」
なぜなら
「(根拠A)αααという観点で市場は魅力的です」
「(根拠B)βββを実行すれば、弊社が競争優位性を構築できる可能性は高いと言えます」
と説明をすれば、ある程度経営学を学んだ人であれば、共通言語が使われているので、非常に議論がしやすくなります。
このケースではさらに「市場の魅力度」を、「規模」「成長率」「5つの力分析から見える収益性」のようにブレークダウンすることもできます。
「十分に魅力的な市場と言えます」
なぜなら
「規模はやや小さいものの、」
「成長率は高いものが見込めており、」
「業界の利益を強く圧迫する要因も見当たらない」
といったブレークダウンです。
これも、経営学を学んだ人間であれば、非常に頭に入りやすい構造といえるでしょう。
その他にも、定番のフレームワークを使いこなすことで得られるメリットとして、印象操作があります。
人間は、語られた内容以上に、語った人間の人となりや、表情、声等に影響されます。ビジネスフレームワークを普段から適切に使いこなしていれば、「いつもフレームワークを使って論理的に考える人」→「あの人の言うことならたぶん正しいのだろう」という印象を持ってもらいやすくなるのです。
そこまでの信用を獲得するのは簡単ではありませんが、『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』(グロービス著)で紹介しているような定番のビジネスフレームワークを適切に使うことで、経営を知っている人から、「こいつ、できるな」と思われることは、ビジネスパーソン個人の競争力を高める上で非常に重要なのです。