ビジネスパーソンに必須の50のフレームワークを解説する『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』の執筆者・嶋田毅氏に聞く、フレームワークの活用法。今日は、「分析」とはなにか…から始まります。
よい分析の持つ、ものすごい破壊力!
分析という言葉の「分」はもちろん「分ける」という意味です。一方、「析」はもともと「斧」を指す言葉だったとされています。いずれにせよ、分析の基本は「分ける」「分解する」です。
「分解」という字を見るとさらに面白いことに気づきます。「分」も「解」も結局は「わかる」という意味を持っています。つまり、分析とは分解すること――適切に切り分けること――であり、それがすなわち「わかる」ということに繋がるのです。
さて、その適切に切り分けるための枠組みが、前回もご紹介したさまざまなビジネスフレームワークです。
たとえば「バリューチェーン分析」は戦略論の基本中の基本のフレームワークとして知られています。
以下の図は、商店街の八百屋と、その近隣にある大手スーパーのコストを調査し、バリューチェーン分析で比較したものです。
店舗開発・運営こそ自宅を用いている八百屋が優位に立っているものの、特に仕入れでは八百屋は圧倒的にコスト高であり、大手スーパーに大きく差をつけられていることがわかります。
ここまで差があると多少のコストカットくらいではこの八百屋が大手スーパーに勝つのは難しいでしょうから、八百屋としては価格競争に持ち込むのではなく、接客や品ぞろえで差別化を図る方がよさそうという結論が導き出せそうです。
これは、コストを精緻にブレークダウンしていったがゆえに見えてきたことです。
バリューチェーン分析は定性的な特徴の比較にも使えますが、それ以上に、この例のように実際にかかっているコストを分析することで、両者の差異の実態をより鮮やかに浮かび上がらせることができます。
「顧客満足度4.2」はリピート客を生むのに十分か?
さて、分析は切り分けることがまずは基本ですが、マトリクスや相関図を書いて項目間の関係を立体的に見るという方法もあります。これもある種のフレームワーク的な発想です。
たとえば、あるホテルで総合顧客満足度が5点満点で4.2という結果が出たとします。
当然、さらにブレークダウンして、顧客層別(性別、年代別など)や、サービス別(食事、宿泊、宴会など)等の満足度を算出し、自社の弱い部分を突き止め、その原因を探り、改善を図っていくことになるでしょう。
しかし、それだけでは分析として不十分です。なぜなら、満足度4.2という数字が経営的にどのような意味合いを持つのかが不明だからです。
もし、4.2という満足度で十分に収益が上がっているのであれば、そこにいたずらにコストをかけることはかえってマイナスです。
この数字の持つ意味を別の観点から捉えることができないでしょうか?
1つの考え方は、満足度を測定している原点に立ち帰ることです。
満足度を高めることのそもそもの目的は、口コミを促したり、リピート需要を増やすことでマーケティングを効率化することです(これは、マーケティングやサービス・マネジメント関連のフレームワークを勉強すると自ずと学ぶことです)。
であれば、たとえば満足度の高かった顧客とそうでなかった顧客のリピート率を比較すれば、そこから示唆が導き出せる可能性があります。
実際に分析をしてみたのが図に示したチャートです。これを見ると、リピート率を高めたいのであれば、平均顧客満足度4.2という数字では全く足りないことがわかります。
もし追加の分析ができるのであれば、NPS(ネットプロモータースコア:口コミ意向)と満足度の相関を調べて見てもいいでしょう。おそらく似たような結果が出る可能性が高そうです。
さらに、純粋な(口コミでない)新規顧客獲得コストとの比較を行っていけば、どのくらいの顧客満足度を目指すべきなのかの指針がより明確に見えてくると思われます。
状況に適したフレームワークを選ぼう
このようなよい分析ができれば、経営はよい方向に向かっていきます。
具体的には、売上げを向上させることができる一方で、コスト低減もしやすくなるため、企業価値が向上していきます。おそらく、人々の労働環境もよくなり、モチベーションも上がるでしょう。
それだけ、よい分析の効果は大きいものがあります。
ただ、悩ましいのは、せっかく分析に役に立つフレームワークを勉強しても、その使いどころが適切ではないパターンが多く見られることです。
これは大学院などでもよくあるのですが、人間は学んだばかりのフレームワークを使いたがるものです。
「人にハンマーを持たせれば殴ってみたくなる」「ゴルフでドライバーの打ち方を学べば、バンカーでもドライバーを使いたくなる」という言い慣わしのとおりに人は行動してしまいます。
たとえば、既存顧客の分析を精緻に行いたいのであれば、何かしらの切り口でセグメンテーションを行った上で、「RFM分析 (Recency最新購買日、Frequency購買頻度、Monetary購買金額)」を行ったり、「ABC(活動基準原価計算)」を用いて顧客別の収益性を確認したり、あるいは「パレート分析」を用いて上位どのくらいの顧客で収益や利益の大部分を稼いでいるかを分析するのが一般的ですし、効果的です。
ところが、前回ご紹介した「5つの力分析」しか知らないと、顧客分析にそれを用いてしまいます。当然、それほど意味のある分析結果は出ません。
5つの力分析で「顧客からの価格値下げ圧力はそれほど強くない」ということがわかったとしても、詳細な顧客分析を必要としている人間からしたら、「そんなことわかっても意味ないよ。もっと役に立つ分析結果はないの?」ということになってしまうでしょう。
5つの力分析では、顧客との力関係も確かに見ますが、それがメインではありません。あくまで第一義的には業界の収益性に関して示唆を得る分析だということを理解していないとこうなってしまうのです。
あるいは、「ロジックツリー」という問題解決のためのフレームワークがあります。
これは問題解決に使えばてき面に効果があるのですが、よくある落とし穴は、形が似ている「ピラミッド・ストラクチャー」と混同してしまうのです。
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ピラミッド・ストラクチャーについては次回ご紹介しますが、もともと論理構築を行い、主張を研ぎ澄ますためのフレームワークなので、これで問題を解決しようとしてもあまり効果はありません。両方をある程度マスターした人間からすれば間違えようはないのですが、最初はどうしても混乱しがちです。
もっとも、最初にロジックツリーで分析した内容を、プレゼンテーションなどではピラミッド・ストラクチャーの形で再利用したりしますから、その混乱もいたしかたない部分はあるのですが……。
こうした落とし穴に陥らないためにも、定番のフレームワークに関しては、その特徴や使う上でのコツ、逆に限界などをよく理解しておく必要があります。『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』(グロービス著)では、今日紹介したものも含めて重要なフレームワークを50個厳選して解説していますので、参考になるのではと思います。
フレームワークは、それを使うことで効果を発揮する場面で使ってこそ意味のあるものなのです。