家族・友人らと縁の切れた人々を
いかに社会へ戻していくのか

 しかしながら、住宅手当とともにアパート探しを支援し、契約できたら「今日から、ここがあなたの住まいです」と支援終了、というわけにはいかない。もちろん、地域のアパートに暮らしはじめるだけで、「鍵を掛けられた病棟の中に100人が入院していて全員が精神病患者」「シェルターの同じ部屋の中に10人がいて、全員が比較的最近までホームレス状態にあった人」という状況からは脱却している。

「でも、何年もホームレス状態だった人は、家族と縁が切れていますし、友人も少ないんです。コミュニティとのつながりを作るサポートも必要です」(Harrisさん)

 精神科病院の長期入院患者も同様の状況にある。バスや電車の乗り方・街の中の商店で買物をする方法が分からなくなっていることもある。「何十年も病院にいた人を、いまさら地域生活させるなんて気の毒だ」という見方も日本では根強いが、Harrisさんは、

「精神疾患になることは犯罪ではありません。だから閉じ込めるべきではありません」

 と明快に否定する。

「医療などのサービスの提供者が、選択肢を与えたつもりになっていることは、しばしばあります。『入院を継続するか、路上生活か』という形で。そうではなく、魅力的な選択肢を掲示することが重要です。何をどういう順序でするか、誰とどうやりとりしたいかを含めて」(Harrisさん)

 それらは、本人がこれまで充分に経験してきたことではない。

「もちろん、リスクも与えることになります。失敗する権利も与えることになります。サービスを供給する側にとっては、怖いことです。でも、人間はすべてリスクや失敗とともに生きています。同じ権利は、すべての人に与えられなくてはなりません」(Harrisさん)

 しかし、その「失敗の権利」を、もう一度同じ過程から同じ失敗に結びつける必要はない。

「harm reduction(害を少なくすること)は考える必要があります。失敗につながりそうなことを本人がしようとしているとき、止めさせるのではなく、最も安全な方法でやれるように支援する必要はあります。たとえば『麻薬を使いたい』というとき、目的は、『喜び・心の落ち着き・平和な感じが欲しい』ということであったりします。その欲求へのアプローチを罰してはいけません」(Harrisさん)

 80年代までの米国では、麻薬への依存は、脳に影響が加わったことによる身体の反応と考えられていた。しかしラットを使った実験で、そうではないことが判明した。ラットを麻薬依存症にした後、より魅力的な選択肢とともに麻薬を並べておいたら、ラットは麻薬を選ばなかったのである。