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コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

マイナンバーってそんなに怖いもの?

韓国では半世紀前から国民生活に浸透

趙 章恩 [ITジャーナリスト]
【第1回】 2015年12月18日
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生活の隅々まで浸透する
韓国の住民登録番号

 さらに、日本では一定の手間がかかる役所の手続きでさえも、住民登録番号の利用が浸透している韓国では、いとも簡単に終わってしまうのだ。

 例えば、運転免許証について、韓国では免許交付の際に必要な視力検査がかつては有料で、これが事務手続きの足かせとなっていた。しかし、最近では、2年以内に区の健康診断を受けた人は、その時の記録が警察庁と道路交通公団の情報とひも付くようになったため、この有料検査が不要になった。 

 会社員にとっては、面倒だが忘れたくはない毎年恒例の年末調整も、韓国では至って簡単だ。

韓国国税庁が今年開設した「ホームタックス」のページ。個人や法人の税に関する計算が簡単に行える。https://www.hometax.go.kr/

 個人の給与所得、利子所得、医療費支出、家族の所得、源泉徴収された金額などを、行政側が住民登録番号で把握しているからだ。

 また、韓国国税庁は今年、Web上に「ホームタックス」を開設し、どうすればより多く税金が還付されるかを個々の収入と支出に合わせてシミュレーションできるサービスなども提供している。

 さらに、日本では相当の時間とプロセスを経なくてはならない相続手続きに至っては、被相続人の死亡届を出すだけで行政側が遺産を把握し、7~20日以内に相続人が相続できる遺産、および相続税の額を教えてくれる。

 行政サービスだけではない。銀行で口座を開設する時にも、携帯電話やインターネット接続の申し込み、有料放送への加入にも住民登録番号は必須だ。学校では子どもの出席や成績など、学習管理の記録まで住民登録番号にひも付けて行っている。

 分かりやすいのは病院だろう。以前、日本の友達から、お土産に手作りの「通院ケース」をもらったことがある。「健康保険証、診察券、お薬手帳が全部入る」という説明と一緒に、イニシャルの刺繍まで入った世界でたった一つの代物だが、ついに、韓国では一度も使うチャンスがなかった。韓国では、病院に行く際、住民登録証だけあればよいからだ。

 患者の診療記録は住民登録番号で管理する。受付で住民登録証を渡せば、病院は、患者が健康保険に加入しているのか、初診なのか再診なのか、どの診療科を転々としてきたのかなどの通院記録を瞬時に把握できる。

 もちろん、診察内容を記載した医療記録は大事な個人情報なので、受付で把握できるのはあくまでも受付に必要な情報だけだ。現在は、こうした情報を病院ごとに管理しているが、政府はいずれ、全国の病院の医療記録をまとめて行政データベースで一括管理しようとしている。

 このように韓国では、生活の全てが住民登録番号で管理されているといってよい。私自身は、住民登録番号があって当たり前の社会で育ってきたため、このこと自体に違和感はない。

――というわけで、「日本でもぜひ、マイナンバーを大いに利用しよう!」と言いたいところだが、ご承知のとおり、デジタル情報の運用には、さまざまなリスクもついて回る。次回は、実際に韓国で起こった住民登録番号に関する不正の例などを紹介するとともに、状況に合った対応策などについても触れてみたい。

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趙 章恩
[ITジャーナリスト]

ちょう・ちゃんうん/韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。
IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「ニューズウィーク」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

韓国の国民生活に、ITがどれほど浸透しているか、知っている日本人は意外に少ない。ネット通販、ネットでの納税をはじめとする行政サービスの利用、公共交通機関のチケットレス化は、日本よりずいぶん歴史が古い。同時に韓国では、国民のIT活用に対する考え方が、根本的にポジティブなことや、政府が規制緩和に積極的で、IT産業を国家の一大産業にしようとする姿勢などが、IT化を後押ししていることも事実である。

一方の日本は、どうして国を挙げた大胆なIT化の推進に足並みがそろわないのか。国民生活にITが浸透している韓国の先行事例を見ながら、IT化のメリットとリスクを見極めていく。

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