「個人資産が丸裸になり、課税が強化される」と、批判的に語られることも多いマイナンバー制度だが、本当はどうなのか?元国税調査官の大村大次郎氏にマイナンバー導入の影響を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
課税逃れをしてきた
富裕層や企業に打撃
――いよいよ今月から、マイナンバーの通知カードの送付が始まりました。マイナンバー導入によって、自分の収入や資産状況が国に把握されてしまうことが恐ろしいという声をよく耳にします。
マイナンバーの使用目的は3分野。社会保障(年金や雇用保険、生活保護など)、税分野、そして災害対策分野です。本格運用は2016年からで、18年以降に利用範囲が拡大していくことになります。まだ流動的な部分もありますが、医療分野への拡大や銀行口座との紐付けなどです。将来、不動産登記や自動車登録、住宅ローンなど、あらゆるお金が動くジャンルで、マイナンバーが使われることになっていくと思われます。
特に銀行口座との紐付けを嫌がる人は多いようですが、日本の労働人口の約8割を占めるサラリーマンにとって、収入や資産を国に把握されることは、恐ろしくも何ともないのです。なぜなら、既に収入はガラス張りで、税金もきちんと徴収されていますから。
把握されて困る人とは、ハッキリ言えば、税金をきちんと支払っていない人です。つまり、あの手この手で脱税をしている富裕層や企業、自営業者などです。
もう1つ、「監視国家になる」というような批判もありますが、今の法律でも国税調査官は金融機関に命じて、納税者の金融資産を調べることができます。つまり、マイナンバーが導入されることで初めて、国がそうした権限を持つようになる、というのは誤りで、すでに国は、権限自体は持っているのです。
――では、マイナンバー導入で、収入や資産の調査がやりやすくなることで、脱税を防げて、税収は増えるのでしょうか?
国際比較をすると、日本は税率が低い国とは言えません。たとえば、所得税の最高税率は45%と、先進国の中でもっとも高い。しかし、先進主要国の国民所得に対する個人所得税負担率を見てみると、米国12.2%、英国13.5%、ドイツ12.6%、フランス10.2%に対して、日本はわずか7.2%です。
どの国でも、所得税の大半は富裕層が負担します。つまり、日本は税率こそ高いけれど、実際には富裕層は、税金をあまり払っていないのです。相続税も同じで、最高税率は55%ですが、実際に納付されている税金は、遺産額の2%に過ぎません。