海外駐在はキャリアのブランクになる!?

 Dさんの話に戻りましょう。Dさんが海外駐在の期間について尋ねると、「海外駐在からは3年を目安に帰国できる」と人事部から説明を受けたようです。しかし、不安は消えませんでした。なぜなら、

「3年間の海外赴任は、日本に戻って来た時にキャリアとして“ブランク”になるだけではないのか?」

 と考えていたからです。果たして、本当に海外赴任はブランクになってしまうのでしょうか?

 Dさんが不安に思う最大の要因は、会社における組織の統廃合が早くなったこと。Dさんの会社もこの2年で新製品の開発と既存製品の撤退が加速的に進んでいます。

 例えば、海外メーカーとの価格競争が激しくなった製品の大半は経営判断で撤退。いくつも事業部がなくなりました。その1つが創業以来のホイール関連の部署で、本社のショールームに「創業の礎」と掲げられた製品をつくっていました。赤字でも、この製品だけはつくり続けると誰もが思っていたので、撤退は相当大きな衝撃となりました。それほど自社が厳しい状況にあることを痛感させられる出来事かもしれません。

 こうして撤退が続くことで、撤退した製品の関係者が窓際に追いやられる現象が起きました。長年、製造部で技術開発していたベテラン社員が営業に異動。あるいは、早期退職を迫られる光景。外資系の資本が入り、経営陣もコンサルティングファーム出身者ばかりに。合理的な判断として、事業部の統廃合が増えるのは明らかです。

 同社では、日本で最先端の技術開発をして、海外でそれを量産するというモデルをとっています。もし3年の海外駐在をすることになれば、技術開発の最前線から長い期間離れて仕事をすることになります。もしかしたら、その間に企業買収や新たな技術開発の開始により、自分は帰国後に窓際になってしまうのではないか。そのような不安が海外駐在にためらいを生む本当の要因なのでしょう。

「確かに海外での生活は不安ですが、社会人として生きていくためには仕方ないこと。それよりも不安なのは、海外に行くことで製造業のなかで長く働くために必要な先端技術から離れてしまうことなのです」

 と、語るDさん。同様の不安から海外駐在をためらうビジネスパーソンは少なくないのかもしれません。