ヒトは生まれながらに性善なのに…SNSに映し出される悪意の正体写真はイメージです Photo:PIXTA

幼児を対象にした実験の結果から、ヒトは本来性善であると考えられるが、SNSをのぞくと日々憎悪の言葉で溢れている。いったいどちらが本当の姿なのか。その答えは、進化の歴史に隠れているという。SNS上の悪意と、その巧妙な仕掛けに迫る。※本稿は、進化生物学者の長谷川眞理子『美しく残酷なヒトの本性 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

無意識で人助けをする
2歳児を見ると性善説を信じたい

 2歳ぐらいの子どもを対象にした実験がある。

 お母さんと子どもが座っているところに、実験者が重い荷物を抱えて入ってくる。ドアを開けようとするのだが、荷物が邪魔して開けられずに苦労している。そんな場面を見た2歳の子どもは、すたすたと歩いていって、ドアを開けてあげるのだ。

 2歳の子どもは、自分が人助けをしているという気はないのだろう。「あの人はドアを開けたいのだ」という他者の欲求を理解し、自分はドアを開けられると認識している。

 そして、自分はドアを開けられるのだ、ということを示したいのだろう。その動機は、自己顕示欲なのかもしれない。しかし、開けてあげるのだから、結果として他人の役に立ったのであり、褒められて、そのような行動は強化される。

 これが性善説の証拠とは言えないかもしれないが、私はこんな研究結果をもとに、ヒトは本来、性善説から出発する存在だと思うのだ。

 しかし、7歳ぐらいにもなると、お母さんがどんなに忙しくしていて、「ちょっとゴミ出しに行ってよ」と子どもに頼んでも、自分が遊んでいるのを中断してまでお母さんの要望に応えようとはしなくなる。