既存の価値観や常識に束縛されない
自由を体現したボウイ

 実は、ボウイは、2014年夏から18ヵ月に渡り癌と闘っていました。それでも、ニューヨークの録音スタジオで新音盤「★(ブラックスター)」(写真)を制作していました。驚くべきことに、レコーディングに参加していたミュージシャンは誰もボウイが癌に侵されているなんて思いもしなかったといいます。

 御年68歳のボウイは、収録した全7曲中5曲を書き下ろし、コーラス、生ギター、エレキギター、弦楽編曲も担当しました。声はデビュー当時の艶を維持しています。恐るべきエネルギーです。69歳の誕生日に新盤を発表。そして、その2日後に逝きました。最期までボウイらしく劇的でした。

 1967年のデビュー盤「デヴィッド・ボウイ」(写真)から遺作となった2016年の「★(ブラックスター)」まで、ほぼ半世紀に及ぶ25枚のスタジオアルバムを聴き倒せば、その変化に圧倒されます(時間のない人は、ベスト盤(写真)で60年代から90年代までの進化が一聴できます)。

 牧歌的なフォークロックでデビューし、SF的なスペースロックから激しい化粧のグラムロック、さらにプログレッシブロックを経て、ミニマルミュージック、ディスコダンス等々と変化し続けます。常に時代の変化に一歩先んずることで競争を制したのです。

 ボウイは、変化し続ける才能に加え、優れた武器を持っていました。声です。そして、彼の声を最も輝かせる楽曲を創る抜群の作詞・作曲センスで他の音楽家から屹立せしめたのです。

 ボウイ初のメジャーヒット「スペイス・オディティ」(写真)がそれを証明します。レコーディング時はアポロ11号の月面着陸前夜。宇宙を舞台にしてボウイが描くのは、未知への憧憬と束縛からの自由です。艶のある深い声は高音域ではエッジが効く硬質のハイトーンに変貌します。更に、当時は未だ無名だったプログレの雄リック・ウェイクマンを録音に招く慧眼がありました。彼が奏でるメロトロンが既存のロックを超える新次元サウンドを生んだのです。

 1972年の最高傑作「ジギー・スターダスト」(写真)はボウイ流のコンセプトアルバムです。宇宙から来た架空の存在、宇宙人ジギー・スターダストに成りきり、その誕生、成功、没落を歌います。公演で纏った宇宙人の如き衣装は、山本寛斎のデザイン。歌舞伎の影響も顕著でした。