2月6日、満を持して発売されたホンダのハイブリッド車「インサイト」。5人乗りで、最も安いタイプの車両価格が189万円。現行のトヨタ自動車「プリウス」に比べ、約44万円も安い。「何よりもこだわったのはコスト」(福井威夫社長)ということもあり、この価格こそが売り物だ。
ある首都圏のホンダ販売店では、6日の朝から電話での問い合わせや試乗車の申し込みが殺到、同店舗の店長は「幸先は良さそう」とまんざらでもない様子だが、「正直、油断できない。トヨタの逆襲が侮れない」とも語る。
トヨタ自動車の逆襲とは――。
周知の通り、トヨタは5月に3代目となる新型プリウスを発売する。それだけではない。何よりもホンダ勢が警戒するのは、現行(旧型)プリウスの併売というトヨタの奇策だ(2月10日時点、トヨタ側は現行プリウス併売を正式にはアナウンスしていない)。
業界の常識から言えば、新型車の発売後に、旧型車を併売することはありえない。新型車の販売に悪影響が懸念されるだけでなく、「古い製品を売る」というのは、本来のモデルチェンジの意味さえも否定しかねない行為だ。にもかかわらず、こうした業界の非常識をトヨタがあえて行なう理由は何か。紛れもない、「インサイト潰し」である。
あるトヨタ関係者は「今回の現行プリウスの併売は販売店からの強力な要望によるもの」と語る。
新型プリウスは、現行車に比べ、燃費や走行性能ははるかに向上しているが、より高級化しており、価格は200万円台後半になる見通し。
あるトヨタ系ディーラー関係者は「インサイトの価格は正直言って衝撃的で、売れると思う。ホンダはインサイトの低価格を武器に、法人向けに大々的な営業攻勢をかけており、現行プリウスの販売を止めてしまえば、当面、トヨタ側は価格的に対抗できるハイブリッド車を失ってしまう」と説明する。
現行プリウスで最も安い価格は233万円。新型プリウスの発売以降は、これが200万円前後にまで下げて販売されると、業界内では見られている。
とはいえ、プリウスの方が10万円高い。それでもあえて旧型プリウスを好き好んで購入する人はいるのだろうか。ある自動車ジャーナリストは「ホンダ自慢の走行性能はさておき、インサイトは現行のプリウスに比べ、後部座席が狭いうえ、価格にこだわったあまり、内装やホイール回りなどの装備の面でチープ感が否めない。クルマにこだわりがなく、実用性を重んじる法人向けやファミリー向けでは、相当に激しい競争が強いられるだろう」と語る。
まさしく、攻めるホンダに、守るトヨタ。国内市場は環境対策車の二強が激突する格好だが、じつのところ、インサイトもプリウスも、高級車とは異なり、決して利幅の大きい商品ではない。ましてや、インサイトの場合、「利益は10万円あるか、ないかの低水準だろう」(業界筋)と見られている。
このままでは両社は、縮小する国内市場で“消耗戦”に発展する様相を呈しており、今後の世界の自動車市場の苛烈さを占うようである。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣)