参議院選挙で政権与党の民主党が大敗した。

 その主因の一つが、多くの識者の指摘する通り、「消費増税10%公約発言」の唐突さ、あまりの根拠の薄弱さにあったことは間違いあるまい。後述するが、あらゆる角度から考えてみても10%という数値の意味は明確にならない。使途はわからない。財政健全化とどのように連動するかも不明だ。自民党が先に掲げた数値だ、という以外に理由は、見当たらない。

 しかしながら、仮に、菅総理が消費増税を口にしなかったならば、どんな選挙戦になったであろうか。土居丈朗・慶応大学教授は、「おそらく、民主党の最大の欠点である財源問題――子ども手当て、農家戸別補償、高速道路一部無料化などの新規施策の財源問題、ひいては予算編成能力を、自民党など野党から徹底的に突かれたことだろう」と言う。

 ある自民党三役経験者も、「鳩山前総理に対しては、財源問題では極めて無責任、という負のイメージを与えることに成功したと思うが、菅総理には消費増税を楯にされた」と、口を揃える。「消費増税10%公約発言」は、鳩山前総理の轍を踏むまいという菅総理の本能的な防御意識、あるいは恒久財源捻出への責任感の発露だったのかもしれない。

 そのメリットとデメリットは、結局、選挙戦においてはあまりに後者の方が大きかった。菅総理は完全に読みを誤った。だが、来年度予算編成に窮するのは必至であるほどに、財源問題という足元が崩れかかっていることも確かなのである。

 参議院選挙の一ヶ月ほど前の6月22日、政府は財政健全化に関する二つの方針を打ち出し、閣議決定した。一つは、10年後を見据えた「財政運営戦略」である。現在、30兆円にも上るプライマリーバランス(PB-基礎的財政収支)を5年後の2015年には半減させ、10年後の2020年には赤字を解消、つまりは黒字化を図る、という方針である。

 あえて付け加えるが、10年後に赤字を解消するということは、これらの方針が極めて順調に実現されたとしても、日本の借金、財政赤字は今後10年間拡大し続ける、ということである。だから、多くの専門家が、2010年度に860兆円を越えた公債残高が1000兆円に達するのは確実だ、と警告を発するのである。財政健全化に本腰を入れ始めた先進国が、日本だけを“対象外扱い”してしまうのである。人々は、この冷徹な事実を理解しているだろうか。