徹底して機会に焦点を合わせよ
カエサルの姿勢を「機会活用戦略」と呼ぶならば、どんな特徴があるのでしょうか。
■カエサルに学ぶ機会活用の実践
・(これから)戦場となる場所に最速で到着し優位を占める
・(これから)必ず必要になる物資を押さえる
・(これから)必ず通過する場所に強固な自軍の砦を先に築く
ビジネスでも先行者優位という言葉があるように、最初に新カテゴリーの製品を発売したり、一番にサービスを展開する企業は広く消費者に認知されるチャンスを得ます。必ず必要になる物資を押さえるとは、戦争でいえば資材や食糧、兵員のことになりますが、ビジネスでは特許などの知財、小売では利便性の高い立地などを意味します。
「スマホのインテル」の異名を持つ米クアルコム社は、通信用のベースバンドプロセッサで2014年には世界シェア六割を超える企業です。同社の躍進はCDMAという通信技術の開発で成し遂げられました。携帯端末が高速通信(3G)に移行する際に、同社のCDMA方式が広く採用されたからです。
Wi‐Fi技術を持つ企業の買収などでスマホに関連する知財をがっちりと押さえて、スマホの利用者が世界的に広がることが同社の収益向上に直結するようにビジネスが組み立てられています。クアルコムは旧世代の携帯端末ビジネスでは、競合他社に苦戦した経験を持ち、3Gへの移行を機会として照準を合わせていました。これは次の会戦に必要な物資(技術)を押さえ、通行する消費者が大量に増える道に強固な砦を築くことに似ています。
起業家ビル・ゲイツ氏に見る機会活用戦略
世界長者番付で13年連続の一位だったビル・ゲイツ氏は、高校時代から当時普及し始めたコンピューターにのめり込み、ハーバード在学中に友人のアレンと大手企業にプログラムを売り込むも、最初は上手くいきませんでした。しかし1974年に新発売のコンピューター「アルテア」が雑誌に掲載されているのを見て、二人は衝撃を受けます。
「それに気づいた瞬間、二人はパニックに襲われた。『ああ! オレたち抜きで始まっている! 皆がこのチップのために本物のソフトフェアを書き始めるぞ』(中略)。PC革命の第一ステージに参加するチャンスは一生に一度しかない――私はそう考え、そしてそのチャンスをこの手でつかんだ」(ウィリアム・ダガン『戦略は直観に従う』より)
二人はアルテアの販売元MITSに電話をかけ、このPC上で作動するBASICプログラムを開発中だと話しました。この電話で相手の興味を引き、6週間後に契約に成功します。この体験から、ゲイツは次の洞察を得て大富豪になるための機会に先回りをします。
「ハードウェアが安価になり、高性能なソフトウェアがハードウェアより重視されるようになれば、至るところにコンピューターが普及するだろう。われわれは他社が安価なハードウェアを販売することに賭け、他社に先行してソフトウェア開発の会社を設立した」(前出書より)
ゲイツは自ら体験したことから、コンピューターが世界的に普及してハードが低価格になると予想しました。彼はこの機会に先回りしてソフトウェア会社を設立し、勝利を待ち構えることができる優位点を誰より早く占領したのです。
機会活用戦略を知る者は、ある情報やトレンドから事態の「行き着く先」を予測して勝利を待ち構えることができる場所を独占します。これはまさにカエサルの得意技でした。先行者利益を確実に得るためには、特許を含めた知財戦略、また立地や人材が最優先となるビジネスではそれらをしっかり押さえなければなりません。これはカエサルが戦う前に優位な地を選び、食糧を押さえ、必ず強固な砦をつくったことに似ています。
今の情報による流れはどこに行き着くのか。最終的にどんな展開と結末になるのか。事態を傍観するだけでは、勝利は目の前を素通りしてしまいます。機会を上手くつかむためには、カエサルのように、流れに先回りして勝利を待ち構えることが不可欠なのです。
(第4回は3/30公開予定です)