地球温暖化は、カネになる――。いま世界じゅうで密かに成長している「温暖化ビジネス」の数々を白日の下にさらした『地球を「売り物」にする人たち』。6年をかけて、世界24ヵ国、アメリカだけで数十州をめぐって書かれたジャーナリズムの結晶ともいえる本書の著者マッケンジー・ファンク氏に、インタビューを敢行した。彼は、現地現場でいったい何を見たのか?(聞き手:国際ジャーナリスト 大野和基)

きっかけは、カナダ軍からの奇妙な「招待状」

―― 本題に入る前に、粘り強い、徹底した調査に基づく、このすばらしい作品を書いたことについて敬服します。この作品が私を含め他のジャーナリストが追求すべき調査報道の模範になることは間違いありません。

マッケンジー・ファンク
アメリカ・オレゴン州生まれ。スワスモア大学で哲学、文学、外国語を学ぶ。2000年からアメリカ各地、海外に赴いて記事を書く。解けてゆく北極圏の海氷の報道で環境報道に与えられるオークス賞を受賞し、タジキスタンで実施したグアンタナモ強制収容所から初めて解放された囚人のインタビューで若手ジャーナリストに与えられるリヴィングストン賞の最終候補に残った。これまでハーパース、ナショナル ジオグラフィック、ローリングストーン、ニューヨーク・タイムズなどに寄稿し、高い評価を受ける。本書が初の著書となる。
本書は、ニューヨーカーでエリザベス・コルバートが「必読書」に、米アマゾンで2014年1月の「今月の1冊」に選出されたほか、ネイチャー、ウォール・ストリート・ジャーナル、GQ等、書評が掲載された紙誌は数十にのぼる。著者ホームページ:http://www.mckenziefunk.com/#windfall

マッケンジー・ファンク(以下ファンク) お褒めの言葉をいただき、どうもありがとうございます。

―― しかも、これがあなたの処女作であることを考えると、本当によくやったと思います。

ファンク ありがとうございます。この本を書くのに長すぎるほどの時間をかけました。

―― さて、気候変動にビジネス面の裏の世界があることに気づいたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

ファンク まったくの偶然とは言いませんが、運と言ってもいいでしょう。私は当時ニューヨーク市に住んでいて、いろいろなテーマについて書いていました。グアンタナモ湾収容キャンプから初めて帰還した人(編集部注:ファンク氏はこのインタビューでリヴィングストン賞の最終候補に残った)や、パキスタンの地震救援についても書きました。別に気候変動を専門にしていたわけではありません。実際のところ、気候変動はいささか退屈なテーマだと思っていました。かなりの科学知識が必要ですから。

 ところがある日、カナダの北西航路(太平洋と大西洋を結ぶ北アメリカ大陸北岸航路)を守ろうとする軍隊に入っているカナダ人についてのメールが届きました。そのメールに書かれていたのは、氷が解けて通行可能になった航路の北側の領有権を主張する王立カナダ軍のオペレーションのことで、私はこれをとても奇妙だと思いました。気候変動について今まで耳にしたことがあるものとは、かなり異なった視点だと思ったのです。

―― それがあなたの好奇心をかきたてたのですね。

ファンク そうです。それが本書の第1章になりました。カナダ軍から取材の招待を受けるのは、とても簡単なことでした。自分たちが領有権を主張していることを知ってもらいたいからです。フリゲート(小型の軍艦)に乗るのも簡単でした。

―― カナダ軍は、ある意味でジャーナリストを使って自分たちがやっていることは正しいということを伝えたかったのですね。

ファンク その通りです。ですからジャーナリストにはとてもオープンでした。これが契機となって、私は気候変動につけ込んで儲けようとする人がいることをテーマに取材を始めたのです。