海面上昇を歓迎し護岸壁を売るオランダ、水不足に潜在市場を見るイスラエル、農地を買い占めるウォール街と、本連載では気候変動でカネを稼ぐ人たちを紹介してきた。だが、多くの人にとって地球温暖化といえば、「海面上昇で島国ツバルが沈むのでよくない」「ホッキョクグマが絶滅してしまうから止めるべきだ」といった、倫理的な問題なのではないだろうか。
しかし現在、こうした倫理的な問題にもカネが入り込んでいる場所がある。毎年大量の氷床を失っている、一見「被害者」のグリーンランドである。2008年、自治拡大に向けての住民投票を控えた現地を訪れた『地球を「売り物」にする人たち』著者マッケンジー・ファンク氏は、そこで本物の「不都合な真実」、そして人々が抱える究極のジレンマを見ることになる。
気候変動の「恩恵」に沸くグリーンランド
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私がグリーンランドに到着したとき、デンマークからの分離独立を主張する住民が、島の西岸をなかばまで北上したところにあるウパーナヴィークの体育館に集まっていた。ウパーナヴィークは、木がまったくない北緯73度のツンドラ地帯にある人口1100人の町で、グリーンランドの行政の中心であるヌークからは960キロメートル余り北に位置している。
グリーンランドは3世紀にわたってデンマークの植民地だったが、現在は石油と鉱物資源のブームを迎えようとしており、これまでと違う存在になる可能性が出てきた。世界初の地球温暖化が生んだ国家になるかもしれないのだ。
私がこの地にやってきたのは、独立主義者の巡回説明会に同行し、気候変動の犠牲者であるはずの人々がそれで儲けはじめているのを、この目で確かめるためだった。グリーンランドは、先進国の国民の多く、つまり北半球の住民の多くが直面するジレンマの極端な例だ。地球温暖化が彼ら個人にとってたいした害にならず、むしろ得にさえなるかもしれないのであれば、歓迎して何が悪いのか?(『地球を「売り物」にする人たち』72-73ページより抜粋)
犠牲者であるはずのグリーンランドが、それで儲ける――倫理とカネの問題は、この地で「不都合な現実」を生んでいるようだ。しかし、なぜ儲かるのか? 現地で見えてきたのは、北極海に眠る地下資源だけではない、有り余るほどのビジネスチャンスだった。
陸地では氷河が後退して、亜鉛、金、ダイヤモンド、ウランの巨大な鉱床が現れつつあった。
彼らは採掘によって自らを解放するつもりだった。デンマークとの協定では、グリーンランドは最初の1500万ドルの取り分を除いた鉱物資源収入をデンマークと折半することになっている。収入が増えるにつれ、現在6億5000万ドル交付されているデンマークからの補助金は削減される。最終的には5年から10年、あるいは15年から20年で、温暖化が進んで生産量が増えれば補助金はゼロになり、グリーンランドは晴れて独立を宣言する。化学には活性化エネルギーというものがある。熱を加えると反応が生じる。グリーンランドには地球温暖化があった。熱を加えると独立革命が生じる。だがこれは気候変動のペースで進む分離独立であり、反応には時間がかかる。