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「ウーバライゼーション」の脅威
――シェアリング・エコノミーとどう向き合うか

内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト]
【第55回】 2016年4月8日
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 エニイタイムズでは、Airbnbで空き部屋を提供する人が、鍵の受け渡しや掃除を代行してくれる人を探すことができる。すなわち、シェアリングエコノミーの利用者向けの周辺ビジネスの側面を持っている。これは、既存のホテル向けのリネンサプライ、清掃、警備などを提供している周辺事業者の業界にも影響が及ぶことを意味する。

 スタイリストが選ぶ服を月6800円で何着でもレンタルできるairCloseは、ITRではキュレーターズ・セレクションというビジネスモデルに分類しているが、Peer-to-Peerではないものの洋服のレンタルサービスという点ではシェアリング・エコノミーのモデルと見ることもできる。

 airCloseでは、洋服を保管する倉庫、配送、クリーニング・サービスのために外部事業者と提携している。シェアリングエコノミーなどのデジタルビジネス事業者は、事業に必要なリソースを何でも自前で揃えようとはせず、外部を活用することを優先する。事業に必要なリソースやサービスを提供する既存の外部事業者にとってデジタルビジネス事業者は、新たな顧客層であり、ビジネスチャンスと捉えることができる。しかし、デジタルビジネス事業者のスピード感とデジタルな取引プロセスに対応できなければ、他社に需要を奪われることになる。

シェアリング・エコノミーに
どう対峙するか

 「持たざる経営」という言葉が1990年代から使われるようになり、工場を所有せずに製造業としての活動を行うファブレスという考え方も一般化している。製造業にとって重要な工場や生産設備という経営資源を所有しないという選択肢が浮上したことを意味する。それ以外にも在庫を持たない、店舗や販売網を持たないといった経営資源の一部を所有しないで事業を推進することは、すでに1つの経営形態として認知されている。

 したがって、シェアリング・エコノミーの台頭を脅威と捉えるだけでなく、まず自社で活用できないかという視点で検討することが推奨される。自社で所有している設備・機器などは本当に所有しなければならないのかという疑問を持つことが求められる。また、顧客対応、配送、デザイン、翻訳などの人的サービスを外部から調達することはできないかといった検討も有効となろう。従業員によって実行されている機能を、公募するようなかたちで不特定の人々のネットワークにアウトソーシングするクラウド・ソーシングは、役務という無形価値のシェアリング・エコノミーということもできる。

 さらに、自社がシェアリング・エコノミーの事業者となる可能性もあるだろう。自社の製品・サービスを売り切り型ではなく、必要な時に利用できるような提供形態はないだろうか。あるいは、自社の保有する設備・機器、本業のための周辺サービス(物流、設置、保守など)を、他社や消費者に供給することで新たな収益源となるものはないだろうか。また、自社のコア事業の周辺領域においてシェアリング・エコノミーを展開することで、新たな需要が喚起され既存事業の拡大に寄与するということも考えられる。

 例えば、Amazon.comは世界的なEコマース事業者であるが、そのビジネスインフラであるクラウドをAmazon Web Services(AWS)として提供し、収益をあげている。2015年の決算によると、Amazonの総売上高のうち、Amazon Web Servicesは約7%に過ぎないが、営業利益では41%を占めているのである。AWSは、Peer-to-Peerではないが、ビジネスインフラの究極の共有モデルといえる。

 シェアリング・エコノミーはメディアなどで取り上げられ注目を集めているが、デジタルビジネスの脅威はこれに限ったものではない。ITRが分類しているデジタルビジネスの12分類の1つに過ぎない。企業は、台頭するさまざまなデジタルビジネスに対して、自社のビジネスや業務で有効活用できないかという視点と、自社のコアコンピタンスを活かして新規のデジタルビジネスを創造できないかという視点の両面で調査・研究することが求められる。

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内山悟志
[ITR会長/エグゼクティブ・アナリスト]

うちやま・さとし/大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストととして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。2019年2月より現職。


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日々進化するIT技術をどうやって経営にいかしていくか。この課題を、独立系ITアナリストが事例を交えて再検証する。クラウド、セキュリティ、仮想化、ビッグデータ、デジタルマーケティング、グローバル業務基盤…。毎回テーマを決め、技術視点でなく経営者の視点で解き明かす。

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