LINEの技術開発で大事にしたのは何ですか?

川村 僕がLINEを使い始めてまずびっくりしたのは、そこに生理的に気持ちいいコミュニケーションのリズムが作られていることでした。会話とか電話だとオンタイムのものが、メールになった途端、カチカチ点滅してやっと届く。それが僕にはストレスで。でも、LINEは打ち込んだ言葉がぱっと出てきて、しかも相手が読めば、またぱっと既読になる。
舛田 大前提として、クローズドだからこそ余分なものは排除したかったんです。例えばメールで言う「件名」も要らない。LINEのチャットの部分は日本では「トーク」となっていますが、まさに会話をするようにLINEを使ってくださいと。そうなると、既読かどうかがわからないと、リアルタイムでぽんぽんと会話は成立しないし、そもそもメールとあまり変わらなくなってしまう。

川村 情報を絞り込んだデザインと、「既読表示」という技術的な発明があったと。
舛田 スタンプにしても、リズムよくトークができる大きさを追求してきました。デザインとテクノロジーのチームがよく実現させてくれていると思います。

川村 同時に何千万人もの人がLINEをやっているわけなので、ぽんぽんとやりとりできるスピードを保つためには、相当な技術が必要なんだろうと想像します。
舛田 あまり目立ちませんが、LINEを支えるインフラ技術は世界トップレベルだと自負しています。例えばスタンプをアニメーションにしたり、そこに音を付けたいという発想も初期段階からあったんですが、リズム感の気持ちよさを感じてもらえない状態でリッチコンテンツだけを上乗せしてもメールと変わらなくなってしまうと思ったので、実現まで少し時間がかかりました。

川村 舛田さんの「これは気持ちいいけど、あれをやると気持ち悪い」というジャッジ力は、LINEにとってなくてはならないものなんだと思います。
舛田 全部を自分がジャッジしているわけではないんです。ただ、「こういうサービスや体験が必要だ」という理想を形にしている会社なので、チームにとてつもない創造性を発揮してもらわなければならない。この会社にはすべてにおいて前提がないんです。私の役割にしてもコードも書かなければ、デザインもしない。ただ、サービスや体験を必要なものとして言語化して、現場の人たちがそれぞれの立場でその都度言ってくれるパズルのピースとなる言葉やアイデアを、一つの物語にすることが仕事です。そこには「生理的に気持ちいい」とか「悪い」という感覚での判断も入ります。

舛田 淳(ますだ・じゅん)
LINE 取締役 CSMO
1977年神奈川県生まれ。2008年にNAVER Japanに入社、事業戦略室長/チーフストラテジストに就任。12年に傘下であったNHN Japanグループ3社の経営統合に伴い、NHN JapanのLINE、NAVER、livedoorの事業戦略・マーケティング責任者として執行役員/CSMO(Chief Strategy & Marketing Offi cer)に就任。13年にNHN JapanがLINEに商号変更。14年にLINE上級執行役員 CSMOに就任。15年4月より現職。
川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮﨑あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。