長引く不況の影響を真っ向から受け、縮小を続ける外食・食品市場。苦境を打開すべく、相変わらず熾烈な価格競争を続ける企業が多いなか、逆に高級路線に活路を見出そうとする企業も散見される。まさに「二極化現象」といったところだが、実は消費者のニーズは、「高ければよい」「安ければよい」という単純なものではなさそうだ。最近では、ケース・バイ・ケースで消費性向が変わる「多極化」の傾向が鮮明になりつつある。この傾向にいち早く反応し、先手を打っている外食・食品企業はどこなのか? ようやく日本経済に不況脱出の兆しが見え始めた今、各社の戦略に着目しよう。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

牛丼の低価格キャンペーンが激化する一方、
高級路線の「黒マック」が支持を得る理由

「今さら値下げ競争で勝負しようとしても、泥縄感は否めない」

 吉野家が今夏の商戦で、期間限定の大幅な値下げを発表するやいなや、ネットを中心に消費者からそんな声が噴出した。

 吉野家は、従来380円の値付けだった「牛丼並盛」を、一週間限定で270円にダンピング。これは言うまでもなく、値下げ合戦を繰り広げている競合他社への対抗策だ。すき家は30円引き(250円)、松屋は70円引き(250円)と、やはり期間限定のキャンペーンを張っている。

 相変わらず増えない夏のボーナスにがっかりさせられたばかりのサラリーマンにとっては、ありがたい市場競争であり、吉野家の値下げ戦略を喜ぶ声も多数聞かれる。しかし、デフレの影響が懸念される牛丼チェーンにとっては、もはや「消耗戦」の様相が否めない。

 原価の高い米国産牛肉にこだわり、減収減益が続く吉野家だが、ここへ来てさらなる「低価格路線」へと転じたことに異論が噴出するのには、ワケがありそうだ。

 というのも、外食産業や食品産業の一部では、すでに「高級路線」への積極的な方向転換の動きも見て取れるからだ。たとえば、日本マクドナルドが今春から展開している“新世代デザイン店舗”はその好例だろう。