ファイナンス理論に従えば、「ずっと値下がりを続けている株は、むしろリスクが低い」ということになる。これは、私たちの通常のリスク概念からすれば、少々意外に感じられるかもしれない。なぜそうなるのだろうか?

売れ行き好調のファイナンス理論入門書『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

「好ましいリスク」を味方につける

前回の記事で見たとおり、「リスクは危険性ではなく不確実性である」――これがファイナンスにおけるリスクの第1の特徴だった。もう1つの誤解されがちなのが、「リスクとは悪い結果に関する不確実性だ」ということである。

ファイナンス理論におけるリスクの概念は、あくまでも予想した事象に関する不確実性であり、その結果の良し悪しについては完全に中立である。つまり、ファイナンスが考えるのはダウンサイド・リスクだけではない。むしろ、ダウンサイド・リスクは理論の中心ではないとすら言える。

予想よりもいいことが起きる可能性、すなわちアップサイド・リスクこそがファイナンスの真骨頂なのだ。人生の選択は、この「望ましいリスク」をどれだけ味方につけられるかにかかっていると言っても過言ではない。

ファイナンス理論がアップサイド・リスクにも注目するのは、債券取引や貸付だけが投資のすべてではないからだ。

たとえば、不動産投資であれば、月々の家賃収入だけでなく、不動産そのものの価格上昇の余地がある。購入したときよりも高い値段でマンションを売れる可能性もあるという意味で、不動産投資にはアップサイド・リスクがある。そのほかにも、外国為替投資(FX)やオイル・金・穀物のような商品投資なども、値動きによって得をする可能性がある。