モノの「現在価値」を大きく左右するのが「金利」である。ファイナンス理論によれば、金利とは「リスクに対する見返り」に他ならない。では、そもそもリスクとは何なのだろうか?
リスクにまつわる「やってしまいがちな2つの誤解」について、発売からわずか1週間半で重版が決定したファイナンス理論の入門書『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』をベースに解説していこう。
人食いザメのいるプールに
落ちたときのリスクは?
前回の記事では、モノの価値を決定する重大要素である「金利」が、「リスクに対する見返り」から構成されていることを確認した。
今回はまず、リスクという言葉について、かなりよく見られる「2つの勘違い」を解いておくことにしたい。ポイントは次のとおりだ。
(1) リスクとは危険のことではない
(2) 望ましいリスクもある
まずは1つめから。
ここまでの連載で僕たちが考えていたのは、債券購入や融資、あるいは友人への資金援助といった「お金を貸すタイプの投資」だった。貸し倒れが発生し、元本割れする(もともとあった金額を下回る)可能性のことをダウンサイド・リスクと呼ぶことはすでに見たとおりだ。
これは、僕たちがふだんの生活の中で「その新規事業は失敗するリスクが高いな」「万が一のときに備えて、リスクを分散しておきましょう」などと語るときの語感に近い。
このとき僕たちは、この言葉を「危険性」の意味で使っている。具体的な目の前の「危険(danger)」ではなく、「危険が起こる可能性」を指しているわけだ。危険と危険性の違いについて整理しておこう。
人食いザメのいるプールに落ちてしまったとき、それは「リスク(危険性)」が高いというよりも「危険」そのものである。逆に、そのプールの横を歩いているとき、プールに落ちる「リスク(危険性)」が発生する。
このように、僕たちはリスクを「危険なことが起こる確率」と考えている。プールサイドを歩いているとき、「プールに落ちるリスク」は0.01%だとしよう。ではプールに実際に落ちてしまったとき、このリスクはどう変化するだろうか?
いったんプールに落ちてしまえば、これ以上「プールに落ちる危険性」はない(確実にプールに落ちている)ので、リスクはゼロだ。もう1つ例を考えてみよう。
あなたの友人が難病にかかり、医者に「余命5年」と宣告された。しかし、その後も彼は生き続けた。グラフのように死亡確率が推移するとき、この友人の死亡リスクが最も高くなるのは、いつの時点か? ただし、この医者の予測は絶対に当たるものとする。