堅実なメーカーとバイオベンチャー、社長になるならどっち?

まずはこんな例から考えてみよう。

【問題】2つの会社から「経営者として迎え入れたい」とオファーが来た。
Q社――産業機械メーカー。年率10%ペースで業績と株価が上昇中。
R社――創薬系バイオベンチャー。新薬開発のメドは立たないまま赤字続き。市場の思惑が先行し、株価も激しく乱高下。
双方とも、同額のストック・オプションを用意してくれている。
どちらかを選ぶべきだろうか?

まず、ここで報酬として用意されたのが、ストック・オプションではなく自社株そのものであれば、どちらを選ぶかはあなたの好み次第である。確実なリターンが見込めそうな産業機械メーカーにするか、大化けしそうなバイオベンチャーに賭けるか。

やはり安全そうなほうを手にとりたくなるが、ストック・オプション報酬となると話は別。ここで将来の業績見込みの安定したQ社を選ぶのは、間違いなく愚かな行為だ。

ストック・オプションの価値を考えるならば、ここは絶対にベンチャーR社を選んだほうがいい。

ファイナンスの世界では「株価はランダムウォークする」というのが大前提だ。これまで株価が上昇してきたからといって、明日も上がるとは限らない。ずっと業績のよかった産業機械メーカーQ社も、来年から市場環境の変化に耐えきれず、赤字を出すかもしれない。

これだけでは産業機械メーカーを選びたい気持ちは変わらないはずだ。どれだけランダムウォークを頭で理解していても、やはりQ社のほうがR社よりも株価が上がる可能性が高そうだからだ。

「それでも、あなたはR社を選ぶべきだ」とファイナンス理論は主張する。ストック・オプションの価値は、過去の株価成長実績のみならず、将来の株価成長見込みにもまったく影響を受けない。もしもR社の成長を本当に確信しているのであれば、ストック・オプションなど受け取らず、いますぐ現物の株式を購入すればいいのだ。