危ない銘柄のオプションのほうが価値が高い??
オプションの価値を決めるのは、将来の株価予想ではない。むしろ、将来の予想がつきにくい銘柄ほど、オプションの価値は高くなる。
そう、オプションの価値を決めるのは、リスクの大きさ、すなわちボラティリティなのである。したがって、この例では明らかにリスクの高いR社株のストック・オプションのほうが圧倒的に価値が高いというわけだ。
「危なっかしい銘柄のほうがオプションの価値は高くなる」と説明されても、僕たちの直感は全力でこれに異を唱えようとするはずだ。しかし、オプションとは一種の保険商品なのだと考えればどうだろうか?
一生病気や事故の心配がない運命だとわかっている人がいたら、その人は生命保険に加入したりはしないはずだ。また、80歳ちょうどで死ぬという運命を知っている人も、わざわざ保険料を溝に捨てたりしない。
つまり、不確実性(リスク)がないもののオプションは、価値がないに等しい。僕たちの人生が不確実だからこそ、生命保険というオプションは価値を持ち、ビジネスとして成立している。それと同様、一定のボラティリティがある銘柄のほうが、オプションの価値も高くなるのである。
それでは次回、いよいよブラック・ショールズ式の内実に迫っていくことにしよう。極限までシンプルにして解説するので、どうかご安心を。
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。