「中島さん、無事にご到着されましたか。すみません。もしかして、出口で私が見つけられなかったのではないかと心配で、お電話をさし上げました」
3月下旬、中国西南部の内陸に位置する貴州省の省都、貴陽にある貴陽竜洞堡国際空港に筆者が降り立ったのは、午後8時過ぎ。国内線の遅延が常態化している中国では、常にフライト時刻が気にかかるのだが、幸いこの日は定刻通りに到着してホッとした。
貴陽にある貴州大学の男子大学生が、迎えに来てくれているはずだった。中国のかなり多くの都市に出かけたことがある筆者だが、貴州省は初めて。しかも夜の便しか取れなかったので、少し不安があった。男子大学生とは事前にSNSで連絡を取っていたので安心していたが、まだターンテーブルでトランクを待っている間に電話が鳴り、冒頭の声が聞こえてきた。
日本の大手新聞社主催の日本語スピーチコンテストで第3位に入賞したことがある、とびきり優秀な学生だと聞いていたが、正確な日本語というだけでなく、筆者への細やかな気遣いが感じられて、まるで昔の日本人学生のようだった(昨今は、こんな気遣いができる日本人学生のほうが少ないかもしれないが)。彼が日本に行ったのは、昨年のスピーチコンテストのときの1回だけ。彼が日本人と接するのも、貴州大学に在籍するたった1人の日本人教師だけなので、感心してしまった。
貴州省で熱心に日本語を学ぶ
「昔の日本人」のような学生たち
大学に向かうタクシーの中での会話も非常に流暢で、しかも車内から先生に「中島さんと無事にタクシーに乗りました。今、大学に向かっています」と逐一連絡を入れている姿に感動さえ覚えた。噂に違わぬ語学力で、それは同大学で教鞭を執る須崎孝子先生の指導の賜物だろうと思った。それから貴州大学で過ごした数日間は、学生たちの学ぶ姿勢に感動すると同時に、「日本」について考えさせられることの多い日々だった。
貴州大学は、中国の211工程(21世紀に向けて国内100の大学を重点的に育成する国家プロジェクト)の1つにも選出されている、中国西南部における有名大学。在校生は約6万人。前身は1902年に創設されており、特に農学などの分野で評価が高い。しかし貴州省といえば、中国でもGDPが低いほうに数えられる貧しい省。少数民族が多く住んでいるが、隣の雲南省に比べて有名な観光地が少なく、産業も少ない。貴州大学で学ぶ学生の半数以上は省内の出身者で、北京や上海の大学に比べるとかなり地味な印象だ。
だが、そんな地方の大学にも日本語学科が存在する。1学年約25人×2クラスで約50人。学年によって人数はバラつきがあるが、4学年合わせて約210人が在籍しており、日本語翻訳などを専門に学ぶ大学院も設置されている。同大学では、その学生たちに対し、中国人の教師15人、日本人教師1人の全16人で日本語を教えている。