日本の採用は日本人が思っているほど特殊ではない

 人材マネジメントに関わる近年の研究・調査では、「日本は日本、アメリカはアメリカ」といった区別がもはや意味を持たないことが示されはじめている。それは少なくとも2つの点から言える。

 1つは、日本の採用は日本人が思うほど「特殊」ではないということだ。近年実施された雇用と人事制度の比較研究によれば、世界の企業とりわけアメリカ企業においても、日本でいうところの「新卒採用」に近いものが行われていること、しかもかなり昔から行われていることがわかっている。

 アメリカ企業における新卒採用は19世紀末から開始されている。

 有名な例でいえばGE社(General Electric Co.)。同社は大卒の新規採用を始めた先駆的企業であり、そのやり方はのちに多くのメーカによって模倣された。GEの新卒採用は、もともと工学系の学部を出た新卒者を拡充するために、採用担当者が主要大学のキャンパスを訪問し、大学推薦を受けた学生を訓練生として採用したことから始まった。

 20世紀初頭には、年間数百人の新卒者を採用し、丁寧な新入社員研修・訓練を行ったのちに、さまざまな部門に配属するという仕組みをすでに確立していたという。

 このやり方はやがて、「カレッジ・リクルーティング(college recruiting)」あるいは「キャンパス・リクルーティング(campus recruiting)」などと呼ばれるようになり(以下、CR)、アメリカ企業の主要な採用ルートとして定着した。

 CRはアメリカの大学の卒業期にあたる春と冬の2回に分けて行われる周期的な慣行であり、毎年その時期になると採用担当者はあらかじめ決めておいた数十から百校もの大学を訪問することになる。

 大きな企業になるとそこから毎年300人から500人の卒業生を採用しているようだ。日本企業の採用がそうであるように、アメリカ企業もまた、人材の需要に関する分析、採用要件や指定校の選択など採用方針の決定などを経て、実際の採用活動に入る。

 採用活動は、ジョブフェアと呼ばれるイベントやキャンパス内での面接、企業での面接といったかたちで進み、給与など条件面の交渉をもって終わる。

「CRによる入社はアメリカの大学を出た人材の50%以上だ」という研究者もいれば、「3人に1人くらいだ」という研究者もいるなど、CRが新卒採用のどの程度を占めているのかについて、確たることはわかっていない。

 ただ、採用研究の第一人者であるアイオワ大学のサラ・ラインズが言うように、CRは採用ルートの全てではないにしても、確かに人材の主要な採用源となっているようだ。同じように、シンガポールや韓国にも、日本の新卒採用と似た慣行が行われており、私たちが思っているのほど日本企業の採用が「特殊」だとは言えないことがわかる。