巨人復権 大NTTの野心#4Photo by Reiji Murai

NTTドコモが6月5日に通信料金の値上げに乗り出した。KDDIが追随するだけでなく、ソフトバンクも値上げを示唆しており、業界は料金競争から一転、料金引き上げの時代に突入している。一方でドコモの新料金は、複雑で分かりにくい。特集『巨人復権 大NTTの野心』の#4では、再び“ドコモ離れ”のリスクを冒して値上げに突き進もうとする内部事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

通信業界の料金競争に終止符を打つドコモ
ソフトバンク追随ならもう一段の値上げか

「うちが踏み出さないと、いつまでたってもKDDIもソフトバンクも値上げができないでしょう」

 あるNTTドコモの幹部は、4月24日に新料金プランで値上げを発表した数日後、それに踏み切った業界事情を指摘した。

 日本の通信料金は、菅義偉元首相が主導した「官製値下げ」で2020年以降に低下が続いてきた。それから5年が経過しようとする現在、料金値上げは通信業界にとっての悲願だ。依然として「携帯電話でシェア1位」のドコモは、通信業界をリードするという強烈な自負がある。

 ドコモの決断はすでに競合他社に影響を与えている。KDDIは5月7日に料金値上げを発表しており、衛星通信とスマートフォンがつながる直接通信サービスを含んだ料金プランを新設するとともに8月から既存の料金を300円引き上げる予定だ。

 さらに楽天モバイルは6月23日、動画配信サービス「U-NEXT」をセットに月額4378円の料金を打ち出し、既存プランと比較して1100円高い料金プランを新設した。ソフトバンクは値上げの発表はまだないが、今後の値上げを示唆している。

 最後発のソフトバンクが値上げに動けば、ドコモとKDDIは2巡目3巡目の値上げに動く可能性もありそうだ。通信業界は値下げ競争から一転して料金引き上げの時代に突入しつつある。

 ドコモは前回の官製値下げの局面でも、21年にオンライン専用プラン「アハモ」を導入して「安くてシンプル」な新料金プランで通信業界の値下げをリードした。

 そのドコモが6月5日から開始した新料金プランは、大容量プラン「ドコモMAX」にスポーツ専門動画配信サービス「DAZN」を組み込んで従来プランより1000円以上の引き上げとした。データ無制限で月額8448円だが、クレジットカード、光回線、電気などセット割引を駆使した後の「月額2398円」ばかりをアピールするなど、かつて通信業界が批判された「複雑」で「分かりにくい」料金体系に回帰している。

 すでにドコモは、番号持ち運び制度(MNP)による顧客争奪戦で、新料金を導入した6月単月の実績は転出超過(MNPマイナス)だったことがダイヤモンド編集部の取材で分かっている(詳細は本特集#2『【独自】ドコモ、実質値上げの「新料金プラン」で再び顧客が流出!内部データで判明した苦境の真相、NTTの“稼ぎ頭”のジレンマとは?』参照)。

「電波がつながりにくい」という通信品質低下で批判を浴びているドコモが、再びユーザー離れを加速させかねない値上げに踏み切ったのはなぜか。

 次ページでは、料金プランの値上げと同時にユーザーが理解しにくい“複雑怪奇”な料金体系を打ち出してくる通信ムラ特有の業界論理に迫る。