この一件の後、女性は大きく変わらなかったが、上司への物言いはソフトになった。上司を罵倒したり、怒鳴ることはなくなった。皆の前で、気を遣って接しているようではあった。半年後、人事異動で他の部署へ移った。上司が追い出した可能性があると、囁かれていた。

 異動後、しばらく経ってから、新しい部署の上司に高く評価されるようになり、30代半ばで管理職になったという。昇格のスピ―ドで言えば相当速い。40代の今も、主婦として家庭を守りながら仕事でも実績を残し、一定のポジションを掴んでいるようだ。

 現実論として考えると、この女性が20代後半のときに味わったような「厳しい対応」は止むを得ないときがある。会社には、個人として潜在能力は高くても組織人として疑問符がつく人が少なからずいる。こういう人は、会社や上司、同僚、そして仕事を侮る傾向があることも否定しがたい。その言動が許容範囲を超えたとき、たとえば上司を罵倒するようなことが繰り返される場合は、一定の制裁的な意味を含んだ対処は必要なのだ。そうでないと、職場が成立しない。

自らを見つめ直す機会を与えないと
「中だるみ」の中高年は増えるばかり

 以上のようなケースに鑑みると、自らを省みることなく「そこそこ優秀」と勘違いし、30代後半以降の中年になったときに「中だるみ社員」になる人は、20~30代前半までに厳しい洗礼を受けていなかった可能性があるのではないか。「なぜ、自分の能力はこんなに低いのだろう」「どうして、こんなにできないのか」――。非力な自分を呪い、絶望感のあまり泣き崩れることは、特に20~30代前半くらいまでの間には必要だと思う。

 このような経験を無数にしてくると、40代も走り抜けることができる。これは筆者の経験則でもある。連載第17回で、筆者は30代の頃、会社の上司たちから三下り半を突きつけられ、辞めていかざるを得なかった、と書いた。正確に言えば、それ以前に大量の雑用や難易度の高い仕事を命じられていた。それをこなせないことが、口惜して仕方がなかった。

 だが、「そこそこ優秀」と勘違いした生意気な社員を、悲鳴を上げるほどに徹底して潰してやるのも上司の仕事だと、40代後半になった今、思う。筆者は会社員の頃、10人を超える上司に仕えたが、皮肉なことに怒鳴られ、罵倒され、スパルタ精神をたたき込まれた上司のことしか思い出せない。

 会社は社員が20代前半の頃から、自らを省みる機会を数多くつくり、情けなく、悔しく、怒りをもって見つめ直すように仕向けていくことが、必要なのではないだろうか。そんな姿勢もなく、「ミドル層の活性化や復活」「リニューアル」といった言葉遊びばかりをしている限り、10代の頃の栄光に浸る「中だるみの中高年社員」は増えていく一方だと思う。