初期償却を認めていない東京都と埼玉県

 実は、初期償却について認めていない地方自治体がある。東京都と埼玉県は初期償却を設けている施設を「不適合」としており、東京都ではホームページ上で×印まで付けている。行政が事業者に対して「アウト」の意味の×印を張ってしまうのは珍しいことである。

 両自治体が決めた有料老人ホームの運営ガイドラインである有料老人ホーム設置運営指導指針に合致しないからだという。有料老人ホームは老人福祉法に基づいて、届け出制となっており、届け出を受理して運営を認めるのは都道府県の業務。

 全国の都道府県は、厚労省のモデルに倣ってはいるが、独自に有料老人ホーム設置運営指導指針を作成し、その基準を守るように事業者を指導している。

 なぜ、東京都と埼玉県は「不適合」と断定したのか。

 そもそもの発端は厚労省が2011年6月に改正した老人福祉法にある。同法第24条第6項で有料老人ホームについて、「事業者は家賃、敷金、及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受療する費用以外の金品(権利金等)を受療してはならない」とした。

 それまで権利金や契約金など様々な名目で徴収していた不明朗な費用徴収を禁じたもので、それなりに画期的だった。

 これによって、「将来長生きして、想定した入居期間より長くなる事態に対応させた家賃の前払い」と言われる初期償却を、「日常生活上必要な便宜の供与の対価」ではないと判断し、11年9月にガイドラインを改正したのが両自治体だ。

 だが、多くの事業者は「厚労省が初期償却を認めている。東京都などが作ったガイドラインは、あくまで自治体の独自基準で法律ではない。従って、違法ではない」と反論し、事実上無視している。

 厚労省の担当、老健局施設支援課に聞くと「初期償却については肯定も否定もしていない。禁止してないのは確か」と何とも歯切れの悪い答えが返ってきた。改正老人福祉法が基本的考え方を示し、「東京都はそれに上乗せ基準を設けたと理解している」。対立しているわけでない、と言いたげだ。

 だが、4年前には、厚労省は明確に初期償却を認めていた。改正老人福祉法が施行される直前の12年3月に厚労省は事務連絡を発して初期償却に関わる算定方法を示している。

 その内容を含めて、業界団体が11頁の小冊子「消費者向けガイドブック――高齢者向け住まいを選ぶ前に」を同年10月に作成、配布した。

 そこでは「想定居住期間を超えた期間に備えて、前払い金として支払った将来の家賃が(一定期間以降)返還されないことがある」と堂々と記しており、初期償却を明示している。

 そのガイドブックは、社団法人全国有料老人ホーム協会をはじめ一般社団法人全国特定施設事業者協議会、一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会、高齢者住宅経営者連絡協議会という有料老人ホーム事業者4団体が作成。

 小冊子の最終ページには、「このガイドブックの作成にあたっては厚労省と国交省も協力しています」とわざわざ書き込んでいる。両省のお墨付きである。今更「肯定も否定もしていない」とは言えないだろう。