生産性を追求し、『ほとんどの社員が17時に帰る 10年連続右肩上がりの会社』をつくりあげたランクアップの岩崎社長ですが、会社が「複雑期」を迎え、人事評価制度をどのように変えていくかに悩んでいるとのこと。それに対して青野社長は、「困っていることの共有から始めるんです」と、サイボウズ流の問題解決方法を提案します。(構成:小川たまか 写真:疋田千里)

意思決定の過程も、会議の議事録もすべてオープンに

青野 会社で何かを大きく変えるときは、「問題だと思うんだけど」っていうところから始めて、問題解決の参加者を募る。そうすると、解決に向かっているプロセスもみんなと共有できるので、A案になろうとB案になろうと、結果としてすごく社員の納得性が高いんですよね。

岩崎裕美子(いわさき・ゆみこ)株式会社ランクアップ代表取締役社長。1968年生まれ。北海道出身。藤女子短期大学卒業後、JTBに入社し海外旅行課に転属。その後、ベンチャーの広告代理店に転職し、新規開拓営業としてトップの成績を上げ、1999年から取締役営業本部長として20人の営業をまとめ7年で売上20億円まで成長させる。その後、2005年に株式会社ランクアップを設立。ヒット製品である「ホットクレンジングゲル」は累計販売数600万本を超え、現在、社員数45名で75億円を売り上げる。「ほぼ残業しないで10年連続、売上を上げ続ける会社」として新聞、テレビなど多くのメディアから注目され、取材が殺到している。2013年には東京ワークライフバランス認定企業の育児・介護休業制度充実部門に選ばれる(通信販売業界では初)。

岩崎 そのプロセスには、何人ぐらいの社員が参加するんですか?

青野 基本は全員が参加できます。たとえばこの日本橋オフィスに移転するときなんかも、全員に情報を公開して、意見をつのりました。

岩崎 えー!そうなんですか?

青野 グループウェア上の全社掲示板に上げます。もちろん興味のない社員もいますけど、逆にすごくこだわりを持っている人もいて、常に掲示板をウォッチしている。なんでお前、そこまでオフィスの場所にこだわるねんって(笑)。

 もちろん、移転についての具体的な業務は、人事主体のプロジェクトチームが中心になるんですけど、これも基本的に立候補していいので、参加したい人は参加できる。それで候補の場所にオフィス見学に行くわけですよ。

岩崎 みんなで行くんですね。

青野 はい。そして見学先の写真をバーっと撮って、全社掲示板に上げるんですね。で、見た人が気に入れば「いいね!」を押すし、気に入らなければ押さないし、質問があれば書くし。そうやってどんどんプロジェクトのメンバーが進めている様子を、全社員が共有する。それをすると後から文句は出ないですよね。

岩崎 最終的にはどうやって決めるんでしょう?

青野 みんながいっぱい材料を並べてくれて、最後は僕が、エイヤー!ですね。新オフィスについては最後まで2つぐらい有力な候補があったんですけど、そこから決めるときも、「今、悩んでます」っていうところから話を始めます。「こういうときは、こういう視点で考えなければならないと思います」とまず書き込んで、意思決定の瞬間まで情報を共有していく。まあ、全員が同じように思ってくれるわけではないでしょうけど、納得感が違いますよね。

岩崎 ランクアップでも情報のオープン化と共有は大事にしていて、朝礼では常に会社の今の状態を発表しています。でもママも多いから、全員は朝礼に出られないんですよね。時間が合わなくて。

青野 そういうときは「サイボウズ」みたいなグループウェアが便利ですよ(笑)。うちでは、毎週やっている本部長以上が集まる会議の議事録もオープンにしています。誰が何を言ったかまで。

岩崎 それすごく良いですね!速記のような人がいるんですか?

青野 はい、もちろんパソコンでですけど。その場で速記するから誤字脱字も出るし誤解も出ることもあるんですが、もうそこは気にしていませんね。正確性を重視しちゃうと、大量の情報をスピーディに上げられないので。間違いがあったらコメント欄で修正できますし、変だと思ったら質問すればいいだけの話です。

 オープンにしているから、「青野さん、会議であんなこと言ってましたけど、実はこんな事情があるんです」って、すぐ情報が入ってきます。

岩崎 それはすごくいいですね。会議の内容を議事録で発表しても、結局その背景がわからないから、結果だけ出したみたいに見えちゃう。うちも真似しよう。

青野 とはいえ、やっぱりプライバシーに関わることやインサイダー情報になることもあるので、全部オープンに出しているわけではありません。「公開」「非公開」「極秘」という3つの公開の段階を選べるのも、「サイボウズのグループウェア」の優れた機能です(笑)。

エースが次々に産休に入っても会社が回る秘密

青野 ランクアップさんは部署がたくさんあるそうですが、人事異動も多いんですか?

岩崎 多いです。今、人事異動の文化を浸透させているんです。複数の部署を経験することで、会社を俯瞰して見られるようになりますし、社員同士がお互いの職種の難易度を知ることができます。だから、サイボウズさんのように、社員の評価に市場価値を取り入れるのは、まだちょっと難しいんです。

青野 なるほど。異動は何に基づいて行うんですか?

岩崎 今の考え方だと卒業方式ですね。「あなたはもう宣伝部の仕事は完璧ね」みたいな。そうしたら次に行ってほしい。

青野 一人前になったら次に行きなさい、ということですね。面白い。

岩崎 ランクアップは、今たいへんな出産ラッシュなんです。45人しか社員がいないのに、6人が育休中。各部署のエースも、バンバン子どもを産んでます(笑)。

青野 1割以上じゃないですか!すごい割合だ。

岩崎 エースの穴を埋めなきゃいけないから大変です。もうどんどん異動してもらわないと間に合わない。そういう意味でも、根付いてきた人事異動文化に助けられている部分はあります。サイボウズさんはどうですか?

青野 今のサイボウズは、どちらかというと専門職種を頑張れという会社ですね。職能も結構はっきり分かれていて、社員はその分野を極めながら自分の市場性を高めていく、みたいなところがあります。

 ですが、異動が少ないことで社員の成長を阻害していないかという見方も出てきたので、見直しを始めています。社員が、自分はどんな職種に就きたいかという希望を出すと、必ず半年に一度のキャリアを検討するマネージャー会議にかけられるようになりました。社員の「これをやりたい」という自発的な意志も、なるべく叶えられるようにしたいと思います。

岩崎 自発的な意志を尊重したいというのは、うちもそうですね。社員の希望もできれば叶えてあげたい。現在広報にいる女性は、もともとカスタマーサービス系の部署でしたが、広報を希望して配属になりました。もともと広報にいた女性は、製品開発部を希望して異動になりました。

 ちなみにうちには、誰でも入れる「製品開発塾」というのがあるんです。普通の化粧品会社の場合、製品開発部に配属されなかったら製品はつくれない。でも、製品開発塾に入れば、どの部署の社員でも、新製品の企画書を出したり、試作品を作れるんですね。で、もともと広報にいた女性は、「スタイルをよく見せられる下着を作りたい」と思っていたので、広報にいながら製品開発塾に入って製品化したんです。

女性が幸せな社会は、多様な働き方が認められる社会

青野 化粧品ではなく、「スタイルをよく見せられる下着」ですか。そういうのは大手の化粧品会社に入ったらまず体験できないことでしょうね。ランクアップさんは差別化された商品をつくることで、飽和状態にも思える化粧品業界の中でヒット商品を生んだわけですが、今後はどこを目指されているんですか?

岩崎 ホールディングのようなかたちをとって、化粧品は1つの事業部にしたいと思っています。それ以外に介護や教育にも携わっていきたいですね。「女性が幸せに生きる社会をつくる」という理念があるので、それに関係する事業をしていきたいと考えています。

青野 化粧品にこだわっているわけではないんですね。

岩崎 そうなんです。新卒は3期生まで入ってきていますが、この人たちには、将来の新規事業部の事業部長やグループ会社の社長になってほしいんです。そういう私の希望をしっかりと伝えて、入社してもらっています。

青野 「女性が幸せに生きる社会」という理念は、どういう背景で?

岩崎 働く女性っていろいろな制約があるので、周囲のサポートがないと仕事を続けられないんですよね。だから、働く女性、頑張る女性を応援する事業を始めたいです。そこは私も(取締役で現在育休中の)日高も考えが一緒なんですよ。

青野 働くママさんは本当に大変ですからね。

岩崎 青野社長のように理解のある男性は、本当に少ないので(笑)。

青野 これからはぜひ働くパパも応援してほしいです。働くパパもなかなか大変ですよ。僕、今日まで社員旅行に家族と一緒に行ってたんですが、今朝は羽田空港に朝7時に着いて、子ども3人を連れて家に帰ってお風呂に入れて、それから保育園に送ってから出社しましたからね。

岩崎 こんな立派な会社の社長なのに(笑)。青野さんみたいな人がどんどん出てくると、すごくいいなと思います。

青野 いいですよね。道連れをどんどん増やしたい(笑)。最近は家族のために料理も始めて、できたら写真を撮ってフェイスブックとかに「パパ料理」と言ってアップしてるんです。でも、別の男性経営者とかからは、「こんなん妻が見たら何言うかわからないからやめてくれ」って言われたりしてますね。

岩崎 「青野さんはあんなにやってくれてるのに!」って言われちゃうから(笑)。でも、パパは夜遅くまで働いている人が多いので、家事育児の分担をしたくてもできない、というのはあるかもしれませんね。

青野 はい。だから僕は去年、3人目の子どもが産まれたので、時短で16時に帰っていました。自分のためもありますが、そういう風土の会社にしたいからです。あ、そういえば、「早く帰る社長」というのも、岩崎さんとの共通点でしたね。

岩崎 そうでした(笑)。男性のためにも女性のためにも、働き方の多様性がもっと認められる社会になっていくといいですよね。