今回より、初の著書『ほとんどの社員が17時に帰る 10年連続右肩上がりの会社』が話題の株式会社ランクアップの岩崎裕美子社長を迎え、サイボウズ株式会社・青野慶久社長との対談を3回にわたり公開します。
化粧品通販とグループウェア、業種の異なる両社に共通するのは、社員一人ひとりの「働きやすさ」と「モチベーション」に着目し、革新的な取り組みに挑戦し続けていること。たとえばサイボウズでは、社員の人事評価と給与を完全に分離し、副業も許可しています。ランクアップでは、ほとんどの社員が原則「17時に業務終了」を徹底することで、業務の効率化を追求しています。両社長の対談から、これからの会社のあり方、働き方のヒントを探ります。(構成:小川たまか 写真:疋田千里)
「この本を読んで、一番感動したのは私です」
青野慶久社長(以下、青野) 『ほとんどの社員が17時に帰る 10年連続右肩上がりの会社』を拝読して驚きました。私と同じようなことを経験されて、同じようなことを考えられているし、同じような取り組みをされているので。
岩崎裕美子社長(以下、岩崎) 同じことを、私も思いました!
青野 根本的な部分が似ているんでしょうか。本来、死ぬほど仕事をするような働き方も大好き、みたいなところとか(笑)。でもそれで経営者をやっていてもみんながついてこないぞって気づいて、メンバーと自分との乖離を埋めるために話を聞くということをされて。
その結果つくられた会社の制度も、サイボウズの制度であっても違和感がないようなものです。すごくシンクロしていて面白いなと思いました。
岩崎 私も、『チームのことだけ、考えた。』を読んだとき、めちゃくちゃ感動したんです。私と同じだって。この本を読んで、私以上に心が動いた人間はこの世にいないと思います。
うちの日高(由紀子取締役)も、青野社長にお会いしたかったと、残念がっていました。彼女と一緒に苦労をして、会社の風土と人事制度をつくってきたので。でも日高は4月に出産したばかりでどうしても来ることができず……。だから今日は二人分、青野さんにたくさん質問があるんです。
青野 お役に立てるなら喜んで。
岩崎 一番はやっぱり、御社の人事評価制度についてです。人事評価と給与を連動させないというスタンスで、結果的に多様性のある働き方に対応した人事制度(※)に行き着いていますよね。このような会社にしようと考えた、最初のきっかけは何だったのでしょう?
(※)サイボウズはメンバー全員の「自立」を前提条件に、「100人いれば100通りの人事制度」というビジョンを掲げている。メンバーがどのような働き方を選択するかを自分自身で意思表明し、その上で個々の評価を行う。
青野 きっかけはやっぱり、離職率が28%まで上がっちゃったことですね。10年ほど前です。そこまで離職率が上がってしまうと、採用コストもかかるし、教育にも時間がかかる。これって本当に無駄だなぁ、と。
それで、辞める人、一人ひとりに話を聞くわけですよね。「何が悪いんだろう?」って。ところがこれがまた、一人ひとり理由が違う。起業したいとか、結婚を機にとか、お父さんの介護とか、理由はさまざま。給料上がるなら残ろうとか、そういう状態ではないことに気づきました。これは一律の施策では無理だ。それならもう、100人100通りを目指すか、と。
サイボウズが、社員の人事評価と給与を切り離したわけ
青野 そして試行錯誤のすえ、いまのサイボウズでは、社員の評価軸を2つに分けています。ひとつは成長評価。この人がどれくらい成長したのかというもの。成長したい人の、成長したいという気持ちに応えるための評価です。成長促進のために評価すると。でも、本に書いたように、「自分はそんなに頑張って成長したくない」という社員だっていていいんです。
もうひとつは市場評価。その人のスキルが市場で査定されたときにどのぐらいの値段がつくかという基準です。「こういう人が、今いくらだったら採用できるのか」ということですね。
成長評価と市場評価を分けて運用して、成長評価の部分は社員一人ひとりが望む働き方に合わせていくうちに、パターンが増えていきました。
岩崎 離職率が高いのって、本当にこたえますよね……。私も昔は、離職率100%みたいな会社で取締役をしていたので、よくわかります。いつも求人広告を出していなければらない。
青野 そのご経験があって、岩崎さんも社員が辞めない会社をつくりたかった、と。
岩崎 はい。でも会社って、人事制度を改革し続けていくと、必ず複雑な制度になりますよね。そしてその結果、複雑すぎて運用できず、シンプル化するという流れをたどる会社が多いようです。うちはまだ複雑期なんですね(笑)。サイボウズさんはもうシンプル期に入られたように思うんですが、何がきっかけで変わることができたのか、知りたかったんです。
青野 そう意味だと、僕は経営者仲間が少なくて、本から経営を学ぶタイプなので、人材マネジメントってなんだろうって悩んだときに、グロービスさんの参考書、MBAシリーズをひと通り読んだんです。その中に、「評価は給料を決めるためだけのものではない」みたいなことが書いてあったんですよ。それで、「あ、そういう発想あるよね」って。
岩崎 なるほど!でもそこから、給与と評価の完全分離にまで行き着くのは本当にすごいです。これって、すごく新しい考え方ですよね。サイボウズさんでしかやっていないんじゃないでしょうか。
青野 プロ野球選手とかに近いかもしれません。基本、年俸です。
健全な摩擦が社内にほしい
岩崎 私たちの会社にも、もちろん人事評価はありますが、いまは苦しい複雑期で、これからいろいろと変えていく必要があるんですね。だからサイボウズさんは、どうやって今の制度を導入したんだろう、すごく度胸がいることだなあって思っていて。
青野 社員から、不満もたくさん出ますしね。
岩崎 サイボウズさんでも、不満は出たんですか?
青野 もちろん出ましたよ。でも、僕はそれがすごく心地いいんです。
岩崎 えっ!?
青野 みんなが不満を持っているはずなのに、出てこない方が気持ち悪くて。お金にこだわりのない人もいるけれど、一方ですごくこだわる人もいる。そこに「あなたの年俸は市場評価で○○万円です」って言って、反発が来ないはずがない。
岩崎 そうですよね。
青野 むしろ私としては、反発を引き出したかったんですよ。「じゃあいくらほしい?」と。その金額をもらうには、こういうことができないと市場価値には届かないね、と。こういう風に理屈をまわしたかったんです。
岩崎 ああ、なるほど。それならスッキリしますよね、お互いに。
青野 はい、スッキリします。お互いに疑問があったらちゃんと投げて、説明責任を果たす。その上でならある意味、対立が生まれてもいいと思うんですよね。葛藤や軋轢があり、その中で納得できるものが見えてくる。そういう健全な摩擦が社内にほしいんです。
日本の大企業だと、何のコミュニケーションもなく給料が決められて、同期と差がついても1000円とか。しかも、その1000円の差が何なのか誰も説明できない、みたいなことがよくあります。そういう形の方が不健全だと思います。
50歳を過ぎて、給与が下がる人もいる
岩崎 市場価値で決めるから、50歳を過ぎると給与が下がる、なんてことがあると人事の方からお聞きしたのですが。
青野 はい、ありますね。特にここ1、2年は、はっきりと下がる人が出てきました。でも、それが悪いことかというと、必ずしもそうじゃないと思うんですよ。給与を上げるために努力することだけが人生じゃない。今の金額に納得して、幸せで気持ちよく働けるなら、何の問題もないわけです。
でも、そういう人に対しても日本の大企業とかは(年功序列で)給与を下げずにいる。そして既得権益みたいになって若い人に回らないから、若い人は文句を言って辞めていく、というようなことがあるわけです。これは良くないですよね。
岩崎 なるほど。パフォーマンスを上げ続けて取締役になったり、新規事業をどんどん始めていったりするようなタイプの方は、50歳を過ぎても年俸が上がっていくということですね。
でも、パフォーマンスが下がったら給与も下がっていくとなると、家計が苦しくなる、という人もいそうですよね。
青野 そういう意味でおすすめの制度があって、それが副業です。
岩崎 それ、私もびっくりしたんです。サイボウズは副業OK!
青野 副業はですね、日本の行き詰まってしまったベテランを救う秘策だと思います。