韓国ロッテグループに裏金疑惑が浮上し、本社を含めた大規模な家宅捜索が行われた。疑惑に伴い、昨年から続くお家騒動はさらに荒れること必至。韓国ロッテは機能不全に陥っている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
韓国5位の巨大財閥であるロッテが創業来、最大の危機にひんしている。重光昭夫・韓国ロッテグループ会長をはじめ、幹部数人らに背任や横領などの疑惑が浮上しているのだ。
韓国検察は6月10日、ソウル中心部の韓国ロッテグループ本社や関係会社、役員自宅など計17カ所の家宅捜索を実施。捜査員約200人を動員し、書類やパソコンなどトラック7台分にも上る大量の資料を押収した。
14日にも追加で家宅捜索し、関係者の間では、検察の力の入れように、「逮捕者が出てもおかしくない」(韓国ロッテ関係者)という見方が強まっている。
すでに、幹部ら24人が韓国国外への出国停止を命じられた。昭夫会長の“韓国側近4人衆”で、ナンバー2のポジションにいる李仁源・韓国ロッテグループ副会長と、ナンバー3の黄珏圭・ロッテショッピング社長も出国停止リストに名を連ねる。
ナンバー4の盧柄容・ロッテ物産社長に至っては、11日に業務上過失致死傷の容疑で逮捕された。スーパー大手ロッテマートが販売した加湿器用の殺菌剤により死者が出た事件で、同社の元代表である盧社長は製品の安全性の検証を怠ったという容疑だ。
盧社長の逮捕は、今回の裏金疑惑との直接的な関連性はないとされるが、事件発生は2006年。10年も前のことだけに、韓国ロッテ関係者は「検察が裏金疑惑でロッテの捜査に本格的に乗り出すと決め、このタイミングでの逮捕になったのではないか」とみる。
検察はなぜ今、ロッテの本格的な捜査に乗り出したのか。
背景には、現在の朴槿恵政権とその前の李明博政権の不仲があるとされる。李政権時の09年、ソウル市内に地上123階建ての高層商業施設「第2ロッテワールド」の建設許可が下りた。当時、関係者は「創業者である重光武雄名誉会長の悲願が達成された」と歓喜したが、実はこの案件には黒いうわさが絶えなかった。
李政権以前、第2ロッテワールドの建設は、ソウル空港との近さを理由に空軍が猛反対し、10年以上もの間、棚上げされてきた。
しかし、07年末に李前大統領が当選すると風向きが変わった。李前大統領は08年、建設に対して前向きな発言をし、09年には空港の滑走路を改築する形で第2ロッテワールドの建設が認められた。
この間、建設に反対を唱え続けていた空軍幹部らが更迭されており、「ロッテが政府や軍関係者に裏金を渡したのでは」との疑惑が浮上していた。
つまり、ロッテの裏金疑惑は前政権の汚職調査にもつながっており、「不仲な前政権のスキャンダルによって、現政権が支持率回復を図る狙いがある」(韓国大手紙記者)というのだ。
ロッテは、昨年からのお家騒動で資本構造の不透明さが公になり、裏金疑惑という“本丸”の捜査にまで踏み込まれ、墓穴を掘った。