『トヨタの自工程完結』のもとで、さまざまな仕事のプロセスや仕事のやり方を洗い出すことには、たくさんの利点があると思っていますが、その一つが、何度も触れているように、業務の流れとかかわる組織が見えてくることです。
自分たちの仕事の前工程、後工程がどのようなもので、いったい誰がそれをやっているのかが、はっきりとわかることは、重要なメリットです。
実際には、会社の業務はきわめて複雑に入り組んでいます。この意思決定をするために必要なこの情報は、別の部門からもらわないといけない。あるいは、この意思決定は、別の部門の意思決定を経てからでなければできない。そうした業務はたくさんあります。
これがかなり入り組んだ、複雑な組織もあります。そこで私たちは、自動車を製造する際、工程改善に使っている「TLSC(トータル・リンク・システム・チャート)」という業務フロー図を活用することにしました。
TLSCは、複雑怪奇に入り組んだ自動車のサプライチェーンなど、複雑な工程を見えるようにした図です。例えば、自分の作成した帳表(情報)がどこの部署の仕事に使われているのかがわかります。万が一その帳表が予定した期日までに作成できなかった場合、その帳表の情報を使って仕事をしているすべての部署に、遅れることを連絡する必要があります。
新型車を開発し、生産、販売していくうえで、ある部品の設計情報は、車の生産にかかわる部署だけでなく、車の取り扱い説明書や、販売店でお客さまにお見せする車のカタログなどを作成している部署においても、活用しているのです。
実は一時、業務のプロセスがどのように流れているか、ある部門で壁に紙を張って書き出したことがありました。ところが、これが大変な量になったのです。
この業務プロセスを進めるには、別のこの部門の人たちが決めておいてくれないといけない。そういうことを一つひとつ紙に書き出すと、相当手間のかかる作業になると思いました。
そこで、TLSCを短時間で作成できるソフトを使うことにしました。ソフトに必要な情報を入力すると、業務プロセスと各プロセス間の情報のつながりがわかる図が自動で書き上がるのです。また、前工程、後工程がそれぞれに作成したTLSCをそのソフトで簡単につなげることもできます。
これには、当該部門の担当者も驚いていました。このソフトにより、自部署の仕事の流れを書き出し、前後工程と仕事の流れの不整合を確認・改善する動きが加速しました。
前工程、後工程がどの部門か、はっきりと把握する
例えば、A部署が決めなければB部署は決められないのだが、逆にA部署が決めるためにはB部署のデータが欲しい、といった矛盾が見えてきたりする。どちらかが先に決断をしなければいけないのです。お互いに「あの部署は……」と待っていると、未来永劫決まらない、などということになりかねない。
では、どちらが先に決めるべきか。どんなふうに情報を流すべきか。それが見えてくる。
また、こちらが決めたことがあちらに影響するし、あちらの決めたことがまた、こちらが先に決めたことに影響してくる、といったことがすべてのところで起こりうるのだ、ということにも気づけます。
つまりは、すべての仕事はつながっているのです。前工程であり、後工程なのです。自分たちがきちんと仕事をしなければ、後工程が困る。後工程が何を期待しているのかに気づけなければ、後工程が満足してくれる仕事はできない。こういうことに、どんどん気づいていくのです。
そうすると、部門同士のコミュニケーションがきわめて円滑になります。お互いの仕事が見えることで、すぐに解決方法が見つかるのです。
だから、「自工程完結」に取り組むことで、部門間のコミュニケーションがとてもよくなりました。
もちろん、すべての仕事をすべての部門とつなげていくのは難しいかもしれません。ただ、階層の上のポジションの人たちは、やはり知っておいたほうがいい。トヨタでは、だいたい三階層から四階層で、全体をカバーするようにしています。
部長が見るレベルと、グループマネージャーが見るレベルと、担当者が見るレベルは異なります。部長はより大きな視点で見ていきますから、担当者のレベルまではとても見きれません。したがって、階層が下りてくると、仕事の精度はどんどん細かくなっていきます。自分のカバーすべき範囲をしっかりこなすことが、「自工程完結」の完成度につながるのです。
もちろん、すべての会社にTLSCがあるわけではありません。もし、似たようなプログラムがあるなら、「自工程完結」の考え方に使うことができます。もし、プログラムがないなら、それこそ大ざっぱでもかまわないので、仕事のプロセスと組織とのつながりを紙に書いて進めることも有効だと思います。
大事なことは、自分たちの業務がどこで前工程になり、どこで後工程になるのか、ということをしっかり把握しておくことです。それぞれのプロセスで、どうつながっているのかを理解することです。そうすることで、前工程、後工程の部門とのコミュニケーションが図れる。これができれば、自分たちの仕事が大きく効率化していく可能性が高まるのです。
(次回は、6月30日公開予定です)