あれこれと『トヨタの自工程完結』のメリットを挙げてきましたが、こうしたメリットの結果として、私が特に実感しているメリットを、最後に二つ挙げます。
今回は、この中のメリット9~10を紹介します。
[メリット1] 部分最適がなくなる
[メリット2] 上司が進捗確認できるタイミングを作れる
[メリット3] 上下左右のコミュニケーションが深まる
[メリット4] 各部署の固有の強みを最大限に活かせる
[メリット5] 部門内の情報共有が進む
[メリット6] 会議が減る
[メリット7] 理不尽なところが見える
[メリット8] 失敗が減り、妥協がなくなる
[メリット9] 生産性が上がる
[メリット10] モチベーションが上がる
[メリット9] 生産性が上がる
その一つは生産性が上がることです。
工場では常に生産性向上の具体的な目標があり、そこにこの考え方が大きく寄与したことはすでに書きました。「プロセス/手順」を洗い出すことで、実は必要のないプロセスに時間をかけていたことがわかり、工程数そのものを減らしたケースもありました。
この新しい考え方になってからは、仕事をトータルに見ていくことで、全体で生産性向上を図ろうという空気に変わりました。かつては課ごとに目標が与えられ、生産能率を評価されて給料が決められていたものが、今は全社平均で判断されるようになっています。全社で数字が上がれば、全員の給料が上がるのです。
スタッフ部門の仕事でも、「目的・ゴール」に立ち返ることで、実はそれほど必要のない仕事だったことがわかり、業務そのものをなくしたケースがあります。また、自分たちの部門のみならず、関連する部署や取引先ともコミュニケーションをとり、業務をなくすなど、効率化したケースもありました。
そしてもちろん、個々の仕事の生産性もアップしました。「自工程完結」の考え方を用いることで、上司とのコミュニケーション・ギャップが減り、やり直しが大きく減ったのです。
[メリット10] モチベーションが上がる
二つ目のメリットは、「自工程完結」の考え方で仕事を進めた結果、モチベーションが上がることです。
一生懸命頑張っているのに、正しい結果が出ない。これが、モチベーションを阻害している最大の要因だと私は感じていました。
「自工程完結」の考え方を用いるとはつまり、正しい結果が出るための、正しい仕事のやり方が理解できる、ということです。一生懸命にこのとおりにやれば、結果が出る。これだけのことをやれば絶対に大丈夫だと、みんなが自信を持って仕事を進められるようになる。
言葉を換えれば、現時点での一〇〇パーセントが見える、ということです。それまでは、カイゼン、カイゼンと言われ、どこまでやったらいいのか、決められていませんでした。より良く、昨日より今日……。もちろんその意識は今もありますが、かつてはエンドレスのイメージだった。
それが、少なくともこれをやれば、自分の責任は一〇〇パーセント果たせる、というものがプロセスの中にあるようになったのです。だから、頑張りがいがある。「よし頑張ろう」というモチベーションにつながっていく。もっと精度を高めていこう、ということになる。マニュアルはアップデートされていきますから、カイゼンの意欲もさらに湧くのです。
さらに、「目的・ゴール」をしっかり理解することで、自分の仕事が単なる作業ではなく、お客さまにしっかりつながった大事な仕事なのだ、ということがわかるということです。
これが理解できれば、日々はつらつと働く「八百屋の親父」に誰もがなれる。自分の仕事の意義を実感しながら、仕事に向かうことができるのです。