──それにしても、なぜそれが秋葉原だったんでしょうか。

 なんででしょうなぁ。それこそ戦後の真空管時代から始まるような、なんかオタク的なものが、きっと土の中に埋まっとるんですよ。

 こだわりであったりマニアックな部分というのが、オタク的な部分ですわな。秋葉原の特異性は、ラジオ会館の歴史を見れば一目瞭然です。最初はオーディオ。常人には違いがわからんような音にこだわって、真空管や性能のいいスピーカーといったものを買いに“音のマニア”が集まってきた。

 言うたら秋葉原には最初からオタク的なものの要素があった。オタクにとっての居心地の良さというんですかな。

 その居心地のよさというのは、オタクの部屋と同じなんですね。成功しているアキバのお店というのは、みんな高密度できゅーっと詰まってるんです。

 今、駅の北側のほうに「クロスフィールド」(※注7)とかガラス張りできれいなビルができとるじゃないですか。あんな小綺麗な街なんかね、オタクが好きなわけはないんですよ。“クール”な店とか、そういうとこはクソ食らえなわけですよ。

 そうじゃなくて猥雑な感じというか、狭くてぎゅうぎゅう詰めになってるところが、よさなんです。

 秋葉原の強みは、それが新たにつくられたんじゃなくて、自然に生まれてきたものだということですね。

オタク文化は
狙ってはつくれない

──最近は、政府や行政が、「オタク文化」や「オタクビジネス」を、積極的に盛り立てようとする動きもありますが。

 お上が「こんなもの用意してあげたよ」とやって、成功するわけがないでしょうな。
オタク文化というのは、狙ってつくれるものではないんです。日本のアニメやマンガのブームにしても、「ガンダム」も「宇宙戦艦ヤマト」も「ポケモン」も「エヴァンゲリオン」も宮崎駿の映画もね、どれ一つとして最初は評価されずに、放映打ち切りされたりスポンサーがつかなかったりだった。

(※注7)秋葉原クロスフィールド:東京都保有地の再開発プロジェクトで建設された複合施設。06年完成。「秋葉原にIT関連産業の世界的な拠点を形成する」という都の計画が発端。秋葉原に大型ビジネスエリアを出現させるとともに、同地に非オタク客や女性客を呼び込んだ。