社長の「無理難題」――。世のサラリーマンが忌み嫌う言葉からもしれません。しかし、Pepper元開発リーダー・林要さんは、ゼロイチを実現したいならば、魂のこもった「無理難題」をガンガン押し付けてくる社長のいる会社でなければダメだ、と断言します。どういうことか?林さんの著書『ゼロイチ』から抜粋してご紹介します。
「無理難題」が思考を活性化する
「3%のコストダウンは難しいが、3割はすぐできる」
これは、松下幸之助さんの有名な言葉です。
かつて松下電器(現パナソニック)が、トヨタにカーラジオを納品していたころのこと。トヨタから、毎年3%のコストダウンを求められていたのですが、あるとき、3割カットを要求されたそうです。
毎年3%カットするのも難しかったのですから、もちろん、担当部署は「到底無理」と判断。しかし、そう回答しようとしていた矢先に、松下さんが介入。「3%のコストダウンは難しいが、3割はすぐできる」とトップダウンの指示を出したというのです。
どういうことか?3%カットならば、これまでの延長線上の発想でやり繰りしようとする。しかし、改善を繰り返せば繰り返すほど、改善余地は少なくなってくる。だから、3%カットは年々難しくなるわけです。
ところが、3割カットとなれば、抜本的に製品そのものを見直さなければ実現不可能。ゼロから考えるのだから、たいへんではあります。しかし、白紙に戻るのだから、工夫の余地が一気に広がるということでもある。だからこそ、3割カットのほうが簡単なのだ……。こういう考えだったそうです。
はっきり言って、無理難題。現場の人々は、きっと「無茶言うなよ……」と思ったに違いありません。それは、自然な反応だと思います。
だけど、僕は、これは正しい考え方だと思います。組織が力を発揮するのは、トップダウンが機能したときです。トップからの無理難題によって、現場の発想が強制的に切り替えさせられる。これが、ゼロイチを生み出す大きな原動力になると思うからです。