ビジネスパーソンはそれぞれ専門知識や専門技術を磨き上げなければなりません。しかし、仕事に向き合う姿勢が中途半端だと、身につけた専門知識などが、むしろ邪魔になってしまう。特に、ゼロイチのプロジェクトでは、害悪すらもたらしかねない……。Pepper元開発リーダー・林要さんは、そう言います。どういうことか?林さんの著書『ゼロイチ』から抜粋してご紹介します。

 

中途半端な「専門家」ほど厄介な存在はない

 中途半端な専門家──。
 ゼロイチにとって、これほど厄介な存在はないと思っています。
 もちろん、ビジネスパーソンはそれぞれ専門知識や専門技術を磨き上げなければなりません。しかし、仕事に向き合う姿勢が中途半端だと、身につけた専門知識などが、むしろ邪魔になってしまう。特に、ゼロイチのプロジェクトでは、害悪すらもたらしかねないと思うのです。 

 なぜなら、「これまでとは違うことをする」のがゼロイチだからです。
「これまでとは違うこと」なのですから、当然、失敗するリスクがあります。そして、専門家には、そのリスクがよく見える。これは、いいことです。事前にリスクを洗い出して、しかるべき対策を打てるからです。

 しかし、ここで中途半端な専門家は、「できない理由」を並べ始めます。専門家であるからこそ、いくらでも並べられる。その結果、ゼロイチのプロジェクトが迷走し始めることがあるのです。

 もちろん、実現する可能性のないプロジェクトを専門家の知見により、早めに見切ることも時には大切です。しかし、ゼロイチとは、そもそも成功するか失敗するかギリギリのチャレンジ。失敗するリスクのないゼロイチなど、ありえないのです。

 であれば、まずは「できる可能性」をとことん追求することが重要。「できない理由」ばかり並べても、何かを生み出すことなどできるはずがないのです。

 なぜ、こんなことが起きるのか?
 結局のところ、仕事に向き合う姿勢の問題だと思います。
 あらゆる仕事は、なんらかの「価値」を生み出すためにあります。そして、その「価値」を生み出すために、あらゆる努力をするのがプロフェショナルです。

 ところが、その姿勢が中途半端な人は、「関係者が丸くおさまること」「自分の経歴に傷がつかないこと」「後始末が手間にならないこと」など、これまでのやり方の枠内にとどまったままの、面倒が少ない選択肢を探します。「価値」を生み出すことよりも、「うまくやる」ことに固執するのです。

 そして、その言い訳に専門知識を使い始める。しかも、厄介なことに、自らはプロジェクトのためだと思い込んでいるから、その言い訳に熱が入ります。しかし、これでは本末転倒。専門知識は、「価値」を生み出すためのツールにすぎないはず。ここを間違えると、専門知識がゼロイチの障壁となってしまうのです。