しかし、世の中はそういう主体的・能動的にものを考え、動くことができるタイプばかりではないし、少しのサゼスチョンで、選択肢が広がることもあります。

 せめて様変わりした就職プロセスを知っておき、必要に応じて適切なアドバイスをしましょう、というのが講演の主テーマでした。

もちろん、アドバイスができるかどうか、その言葉が耳に届くかどうかは、日ごろのリレーションの濃淡によるのでしょうが。

ブラック企業への入社を
未然に阻止できるのは親だけ

 保護者に話をしながら、ふと思い出したエピソードを最後に付け加えました。それは、若者の言う「ブラック企業」をめぐる話です。

 都心に勤めておられる読者であれば、経験があるかもしれません。私は東京駅で2回、浜松町で1回、それに遭遇しました。

「新人研修なんですが、名刺を1枚いただけませんか?」。スーツ姿が板につかない、いかにも新入社員という風情の若者が、通りかかったビジネスマン諸氏に、次々に声をかけているのです。

 見るともなしに見ていると、無防備というか、優しいというか、10人に1人ぐらいは名刺を渡しています。

 ブラック企業というのは、一般に非合法スレスレのビジネスをし、時に労働基準法の存在を無視した過酷な労働を強いるような企業を指しますが、このようなやり方で度胸試しの名刺獲得研修をさせる企業を、私は躊躇なくブラック企業と呼びたいと思います。

 私は、どちらかというとお節介な性格なので、声をかけられれば、たしなめます。

「名刺は個人情報だから、みだりに渡すものではないんだよ。もらった名刺をどうするの?」

 この新人たち、人様に名刺を要求する一方、自分の名刺を渡そうとはしません。口頭で、勤務先を述べるだけです。私が遭遇したケースは、投資用不動産の販売会社、投資商品を扱う金融系会社でした(後から調べたところによれば、です)。